研究課題/領域番号 |
13J05377
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
前田 優子 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 環境要因 / 統合失調症 |
研究概要 |
当初は、胎仔期母体擬似ウイルス感染による統合失調症発症様精神異常行動発現に関わる分子基盤を追及する予定であった。しかし、本モデルマウスの行動異常の再現性が良くないことが判明したので、研究期間内に成果をあげることが難しいと判断し、別のアプローチで環境要因の役割を追究することにした。すなわち、胎仔期の環境要因でなく遺伝的要因として下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)欠損マウスを用い環境要因の役割について追究することにした。従って、「豊かな環境飼育のPACAP遺伝子欠損マウス学習記憶障害抑制作用に関わる分子機構」というテーマで研究を遂行している。 PACAPは脳の広範な領域に発現し、神経伝達物質、神経栄養因子、神経調節因子として種々の高次脳機能に関与する神経ペプチドである。近年の臨床研究により、精神疾患発症とPACAP機能低下との関連が示されている。また、基礎研究においても、PACAP-KOマウスが成育後に多動や跳躍行動、抑うつ様行動、学習記憶障害などの精神疾患様の異常行動が認められ、これらの異常行動が抗精神病薬で抑制されることが報告されている。 一方、私の所属研究室では、玩具や運動器具を設置し日常の刺激を強化した「豊かな環境」でPACAP-KOマウスを幼若期から4週間発育させると、異常行動の抑制効果が認められることを明らかにしてきた。しかし、その分子基盤は不明であった。そこで当該年度は、異常行動のうち学習記憶障害に着目し研究を行った。 4週間の豊かな環境飼育を施したPACAP-KOマウスおよび野生型マウスの脳海馬領域では、通常飼育群と比較しNMDA型グルタミン酸受容体サブユニットの一つであるNR2B発現量および脳由来神経栄養因子(BDNF)発現量の有意な増加、神経栄養因子の一つであるNeurotrophin-3発現量の低下が認められた。また、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)およびカルシウムカモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)のリン酸化レベルの有意な上昇が認められた。さらに、4週間の豊かな環境飼育を施し、その後2週間の通常飼育を行った後も、学習記憶障害抑制作用が確認された。 以上の成績より、豊かな環境飼育による脳海馬領域の分子発現への影響、およびPACAP-KOマウスの示す記憶障害に対する、豊かな環境飼育による改善作用の持続性といった新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウイルス感染モデルマウスの行動異常の再現性がうまくいかず、期間内に研究成果をあげることが困難であると判断し、研究課題に対して異なるアプローチでの研究をスタートしている。短期間であるが、研究実施状況に記載のとおり環境要因の重要性を示す結果を得ており、研究はほぼ期待どおり進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度からの継続として、モデルマウスの作製を試み、胎仔期母体擬似ウイルス感染による脳内でのマイクロRNA (miRNA)の発現変動にっいて、網羅的解析を行う。これに加え、エピジェネティック変化(DNAメチル化)にっいても解析を行う。また、rniRNA発現変化あるいはエピジェネティック変化にともない発現変動する分を同定し、これら分子が脳の器官発達に及ぼす影響を明らかとする。さらに、胎仔期母体擬似ウイルス感染により発現変化する分子が、神経細胞ならびにグリア細胞の増殖や分化・成熟に与える影響を解析する。これら細胞の増殖や分化・成熟に変化を認めた場合、各神経系(グルタミン酸神経、ドパミン神経等)のマーカー蛋白の発現変化を解析し、影響を受ける神経系を同定する。 上記の研究と並行し、「豊かな環境飼育のPACAP遺伝子欠損マウス学習記憶障害抑制作用に関わる分子機構」という研究を遂行する。
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