研究実績の概要 |
当初計画では、「胎仔期母体擬似ウイルス感染モデル動物」を用いて統合失調症発症様精神異常行動発現に関わる分子基盤を追究する予定であった。しかしながら、私が計画したICR系マウスでのモデル動物化が困難であることが認められないことが判明したため、研究期間内にモデル動物を確立し成果をあげることは極めて厳しいと判断し、別のアプローチにより精神異常行動発現に関わる分子基盤を追究することにした。具体的には、前年度に引き続き、PACAP欠損(PACAP-KO)マウスの学習記憶障害改善作用に関する研究を実施した。 臨床において精神疾患発症とPACAP機能低下との関連が示されており、基礎研究においてもPACAP-KOマウスが多動や跳躍行動、学習記憶障害などの精神疾患様の異常行動が認められ、異常行動が抗精神病薬で抑制されることが報告されている。一方、私の所属研究室では、玩具や運動器具を設置し日常の刺激を強化した「豊かな環境」でPACAP-KOマウスを幼若期から4週間発育させると、異常行動の抑制が認められることを明らかにしてきた。 PACAP-KOマウスおよび野生型マウスを、4種類の飼育環境[(1)通常環境群, (2)豊かな環境群, (3)輪回し車設置群, (4)輪回し車を含まない豊かな環境群]に分け、4週間の各環境下での飼育後、PACAP-KOマウスの学習記憶障害は、豊かな環境および輪回し車を含まない豊かな環境での飼育により改善されたが、輪回し車のみの環境飼育では改善されなかった。同様の環境飼育による改善効果は、PACAP-KOマウスの海馬CA1領域での樹状突起スパイン密度の減少に対しても認められた。以上の成績より、豊かな環境飼育によるPACAP-KOマウスの学習記憶障害改善作用において、運動器具を用いた自発的運動による効果の寄与が小さいこと、海馬樹状突起スパイン密度変化の関与が示唆された。
|