平成26年度において、申請者は研究課題を遂行すべく、2本の国内における口頭発表、またニューヨーク公共図書館における調査を行った。 まず2014年6月の「第48回アメリカ学会」(於:沖縄コンベンションセンター)では、「『神』なる力、原子力と創世の物語」という題目の下で口頭発表を行った。これは、The New York Timesの科学欄担当記者でマンハッタン計画のスポークスマンであったWilliam L. Laurenceの原子爆弾関連記事に焦点を当てた研究である。具体的には、Laurenceのヒロシマ・ナガサキ関連記事を1945~49年という時代的コンテクストの内に置き、原子力を「神の力」として描写する語りに内包された意味を吟味した。Laurenceの記事は、被爆者の視点に立脚したものではないテクストとして、これまでの研究において批判的文脈で論じられてきた。本研究ではこれらの先行研究を踏まえながらも、1945~49年という時代的コンテクストにおけるアメリカの原爆観に影響を与えたテクストとして位置付けることの意義について検討した。 また、2015年2月の「第一回地域文化・政治研究大会」(於:名古屋大学)では、上記の発表内容をさらに発展させ、「1945年の創世記」という題目の下で口頭発表を行った。本研究会は申請者の専門領域である文学のみならず、歴史学・社会学・人類学等、非常に様々な分野の研究者が集まるものであり、当該研究に関し、学術領域を横断して活発な議論が成されたことは、研究のさらなる発展に大いに貢献するものであった。 さらに、2015年8月には、ニューヨーク公共図書館において、William L. Laurenceの原子力記事に関する資料収集を行った。当該調査において、冷戦期におけるLaurenceの原爆観を知る手がかりとなる資料に加え、第二次大戦直後に成されていた原子力に関するキリスト教の「説教」に関する文献を入手することができたことは大いなる収穫であった。
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