本年度は、前半に、在外研究の機会を得たことから、渡航先であるハカス・ミヌシンスク盆地における資料見学および、当地における研究状況の把握を優先的に取り組むこととした(Ⅰ)。年度後半は、在外研究で得られた成果を纏めるとともに、ユーラシア草原地帯の時期区分における問題および、スキタイ系動物紋出現の意義について検討した(Ⅱ)。 Ⅰでは、ハカス・ミヌシンスク盆地 におけるカラスク文化の研究状況を、特に近年の編年研究を中心に整理し、そこで重要な問題として挙げられるルガフスク期の開始問題を考えた。ハカス・ミヌシンスク盆地における研究成果と、盆地外部の資料を含めて分析した研究結果を対比した結果、ハカス・ミヌシンスク盆地における土器、墓葬の型式変化および層位に基づいた編年と、報告者が研究を進めてきた青銅器様式の変化状況が、興味深く対比できることが明らかになった。報告者は、ルガフスク期の出現を、本盆地外部からの集団移入とする従来の考えに変わって、本期を盆地内部での独自性の創出、発展期と評価できる可能性を提示した。 Ⅱは、前1千年紀初頭に出現する「初期遊牧民文化」でつとに指摘されてきた、草原地帯全体でみられる類似性の評価についての検討である。報告者は、草原地帯東部における「初期遊牧民文化」に見られる類似性を、当該文化以前の動態を踏まえ、相対的に評価しようと試みた。まず、青銅短剣という同一の基準を用い、当該文化成立前後における型式分布を確認したところ、「初期遊牧民文化」成立期には、当該地域各地における地域性が以前より増していることが確認された。一方で、動物紋は短剣の諸型式よりも広汎に分布するものであるが、以前の動物紋と比較した結果、動物紋そのものにおける規範の変化が、分布の背景として存在する可能性を指摘した。
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