研究概要 |
(1)ハシブトガラスの社会的順位が発声頻度にどのように影響しているかを調べるため, 飼育下の群れの観察を継続的におこなった. 観察した群れは, 雌雄各5個体からなっており, 明瞭な線形の順位関係が存在した. 発声頻度については, コンタクトコールと連続コールで傾向が異なっていた. コンタクトコールは群れのすべての個体が発したのに対し, 連続コールは高順位個体しか鳴いていなかった. これは, カラスの群れにおいて, 連続コールが社会的順位を他個体にアピールする機能を持つことを示唆する. (2)ハシブトガラスのコンタクトコール(kaコール)に性差が存在するかを調べたオス13個体, メス11個体よりコンタクトコールを録音し, 音響解析をおこなった. その結果, コンタクトコールの音響構造は統計的に雌雄で異なることが示された. つづいて, カラスが音響特徴の雌雄差を区別できるかを調べるため, 馴化―脱馴化法を用いて弁別の有無を調べた. 飼育下の7個体を用いて実験をおこなったが, 彼らがコンタクトコールの雌雄差を区別しているという結果は得られなかった. 馴化―脱馴化法を用いた実験は, 個体数が少ないため, 今後音声のサンプル数を増やすとともに再度おこなう必要がある. (3)黒島, 西表島に生息するオサハシブトガラスについて, 生息環境に適した音声を発しているかを調べた. 9月と2月の2回野外調査を行った. その結果, 島のほとんどが牧草地となっている黒島のオサハシブトガラスは, 原生林を維持している西表島のオサハシブトガラスよりも, 変調の多い音声を発していることが明らかになった. これは, 牧草地という開けた環境に適した音声であると考えられ, ヒトによる環境の変化がカラスの音声に影響を与えてきた可能性を示唆する. 今後は, それぞれの島でプレイバック実験をおこない, 伝播距離等を調べる必要がある.
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