研究課題/領域番号 |
13J05459
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
松田 潤 一橋大学, 言語社会研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 全軍労闘争 / 反復帰・反国家論 / 阿嘉誠一郎 / 人種主義 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、施政権返還目前の全沖縄軍労働組合(全軍労)闘争と、これを描いた文学作品について調査を進め、カルチュラル・タイフーン2014において報告した。その成果をもとに論文にまとめ、『言語社会』に投稿し掲載された。沖縄での資料調査では、(USCAR)公安局文書のうち、全軍労(全沖縄軍労働組合)に関する資料および学生運動への取り締まりに関する資料や、詩の同人誌、琉大学生新聞、米軍統治期の地元紙などを収集した。学会発表と学術誌に投稿した論文の内容は、施政権返還目前の沖縄を舞台に底辺労働者たちのストライキを描いた小説作品阿嘉誠一郎『世の中や(ゆんなかや)』(1975年)を論じたものである。『世の中や』は、施政権返還を目前にした基地経済体制の変容のさなかにおける擬似的階級体制下の労働環境と、軍雇用員たちそして「外国人」に焦点を当てたことで、従来米国―日本―沖縄という垂直的・対立的な構図で説明されてきた沖縄返還問題および米軍占領下沖縄の植民地状況を相対化し、「矛盾の集約する場所」から情況を捉え直す視座を提供している作品である。この「矛盾の集約する場所」を規定する諸権力の網目のなかで小説そのものを再考し分析したことで、軍事占領と資本主義を分離することなく、人種主義、民族/国民主義とも密接に連累した共起性の事態として理解することが可能になった。この成果は、反復帰・反国家論の展開と同時期に闘われた全軍労闘争の思想史上の位置づけをしている点、従来の先行研究でほとんど取りあげられてこなかった作品を論じたものである点、全軍労闘争に加わることができない第四種雇用という最も劣位な労働者たちの政治的主体化を描出している作品の可能性を見出した点で、重要であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
反復帰・反国家論の展開と同時期に闘われた全軍労闘争とその周縁にいた人々を描いた小説作品の分析を通して、「復帰への抵抗」の複数性を見出すことができた。さらに当該期の沖縄における人種主義、資本主義、国民主義に関する研究と本研究を接続させたことは、反復帰・反国家論研究の裾野を広げる上で非常に重要な貢献であったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
「復帰への抵抗」に連なる詩作品および詩の同人誌、映像作品の分析を進める。それらに関する関連文献の収集、学会における発表、学術誌への投稿を順次行う。具体的には、清田政信、中里友豪、新城兵一といった詩人およびその同人誌に関する資料収集、ドキュメンタリー映画『モトシンカカランヌー』(1971年、NDU制作)の分析を行い、日本近代文学会での発表、『日本近代文学』への投稿を予定している。
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