本研究員は、これまでに秒間数千枚の高速超音波撮像を用いた血液からのエコーの描出により心腔内の血流動態の可視化を達成した。さらに、それら血液の動きの検出による血流速度ベクトルを推定する手法の開発を行ってきた。しかし、推定された血流速度ベクトルは時間的・空間的にばらついていており、推定精度が十分でないことが示唆されている。血液の動きに伴うエコー信号の位相変化量は音場の空間的な振動周期に依存するため、形成される音場は血液の動きの検出精度に影響すると考えられる。また、従来法のもう一つの課題として、離散点間隔以下のフレーム間変位を検出するために補間が必要とされるため計算時間が長いことが挙げられる。これらの課題を考慮し、本年度は、血流速度ベクトルの推定精度を向上させるための最適な受信音場形成法について検討を行うとともに、二次元フーリエ変換を用いた二次元速度ベクトル推定の実現可能性を調査した。 受信音場の振動周期を変更するために、アレーを構成する各素子で受信された信号に適用する重み関数(いわゆるアポダイゼーション)を変更した。計算機上で模擬された血流からのエコー信号を用いて、受信アポダイゼーションを変更して推定された二次元速度ベクトルの精度を比較したところ、形成される音場のビーム直交方向の振動周期が短く、焦点が小さいほど高い精度を示した。 さらに、二次元フーリエ変換を用いた心腔内血流速度ベクトル推定の妥当性を評価するために、従来法との間で、上述の擬似血液を用いた基礎実験において従来法との間で二次元血流速度ベクトルの推定精度、および推定される計算時間を比較した。得られた結果から、二次元フーリエ変換を用いた手法が、従来法と比べて遜色のない二次元血流速度ベクトルの推定精度で加算回数および乗算回数を従来法の9.7%に低減可能であることが示された。
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