研究概要 |
本研究では、心房筋特的遺伝子欠損マウスを作製するために、心房筋に特異的な発現をするSarcolipin (SLN)の遺伝子座にCre組換え酵素(以下Cre)を導入したCreknock-in (KI)マウスを用いている。本年度は、心房本来の代謝様式の解明の他、Creの導入によるSLN欠損の影響の検討を中心的に行った。同時に、Cre KIマウスとGata4(欠損の標的遺伝子)のfloxマウスとを掛け合わせた心房筋特的遺伝子欠損マウスの作製も行っている。代謝産物の網羅測定等を行った研究では、成熟マウスにおける心房と心室の代謝様式の一端を解明した。この成果はAmerican Journal of Physiologyに筆頭著者として論文発表した。本論文では、心房と心室における乳酸の取込み量の違いや心室での活発なエネルギー産生、さらには、代謝経路で重要なpynrvate dehydrogenase kinaseの4つのアイソフォームの発現パターンが心房と心室で異なることを発表した。これにより、まとめて1つの組織としてみられがちであった心房と心室の特徴を捉えることに成功した。また、SLNは筋小胞体膜タンパク質で、細胞内Ca^<2+>濃度の調節に関与し、その欠損は心機能に影響するという報告がある(Babu et al., Proc. Natl. Acad Sci, 2007)。従って、SLN欠損の影響の検討において、生理学的機能の測定は不可欠であると考えられる。そこで、独自の新たな実験系を用いてSLN欠損の生理学的影響を検討した。その実験系は、トランスデューサーとエクオリン(Ca^<2+>結合発光分子)により、張力と細胞内Ca^<2+>濃度の同時測定を行うもので、野生型、SLNヘテロ及びホモ欠損体の三群間で比較した。この実験結果と、既に得た分子生物学的実験の結果から、SLNヘテロ欠損は野生型と比べ、有意な影響を及ぼさないことを見出した。これらをまとめた論文を、現在執筆中である。この張力・Ca^<2+>濃度測定の実験系は、あらゆる薬理学実験に適応できるため、新たな研究対象の考案も行った。上の研究成果から、心機能と密接な関係があると考えられた代謝物の一つ"乳酸"に着目し、その生理学的機能について研究を展開した。心臓での乳酸の利用は出生の前後で大きく変化することが知られており(Lopaschuk and Jaswal, J Cardiovasc Pharmacol, 2010)、本研究から、発生と代謝の関係性の解明が期待できる。
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