研究課題/領域番号 |
13J05482
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮内 栄治 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ビフィズス菌 / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
【ビフィズス菌5菌株の大腸炎抑制効果の比較】 すでに全ゲノム解読が完了しているビフィズス菌5株の大腸炎抑制効果の比較を、DSS誘導性大腸炎モデルマウスを用いて行った。その結果、1菌株のみ高い大腸炎抑制効果を示した。今回、大腸炎発症による上皮CD40の発現異常は確認できなかった。これは、マウス飼育施設がかわったため、腸内細菌叢が以前と異なるためだと考えられる。そこで、BN株の大腸炎抑制メカニズムの解析を改めて行った。大腸組織切片を作製し、TUNEL染色およびKi-67の免疫染色を行った結果、BN株投与により上皮アポトーシスが抑制される一方、上皮細胞増殖が促進されることが明らかになった。さらに、β-cateninの免疫染色を行った結果、BN株投与により上皮においてβ-cateninの蓄積が促進されることが確認された。以上の結果から、BN株により上皮Wnt/β-catenin経路が活性化され、ダメージ受けた上皮細胞の修復が促進されたと考えられた。そこで、Wnt/β-catenin経路のターゲット遺伝子であるc-mycおよびcyclin D1のmRNA発現量を測定したところ、BN株投与によりこれらのmRNA発現量が有意に増加していた。 【比較ゲノム解析による活性成分の同定】 大腸炎抑制効果の高いBN株とその他の菌株との比較ゲノム解析を行った。その結果、exopolysaccharide(EPS)合成に関与する2つの遺伝子クラスターがBN特異的遺伝子として検出された。そこで、BN株およびその他のビフィズス菌株からそれぞれEPSを抽出し、DSS大腸炎マウスに投与することでEPSの大腸炎抑制効果を評価した。その結果、BN株由来のEPS投与により、disease activity indexの増加および大腸の萎縮が有意に抑制された。一方、その他のビフィズス菌株由来のEPS投与では大腸炎抑制効果はみられなかった。これらの結果から、BN株が産生するEPSが活性成分の一つであることが明らかとなった。また、EPSの活性が菌株レベルで異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無菌マウスに大腸炎を発症誘導してもCD40発現の亢進は見られなかったが、通常環境下で飼育したマウス糞便を無菌マウスに移植することでCD40発現の亢進を確認することができた。このことは、ある種の腸内細菌が腸管上皮CD40の発現増加を誘導することで大腸Th17細胞の活性化を誘導することを示唆している。残念ながら、その後のマウス飼育室の移動に伴い、大腸炎発症誘導による腸管上皮CD40発現増加が確認出来なくなった。これは腸内細菌叢の変化に伴うものであると考えられる。そこで、他のメカニズムを介した大腸炎抑制効果に焦点をあて解析を試みた。当初の予定であったビフィズス菌数菌株の大腸炎抑制効果の比較検討を行った結果、効果のある菌株とない菌株を選出することができた。また、比較ゲノム解析を行った結果、活性成分の一つとして細胞外多糖(exopolusaccharide, EPS)を同定することができた。また、大腸炎抑制メカニズムを解析した結果、有効菌株およびそのEPSがWnt/β-catenin経路を活性化して大腸上皮細胞の増殖を活性化することを明らかにした。また、非常に興味深いことに、EPSの活性は菌株レベルで異なることが示された。 以上のように、当初の予定であったCD40を中心とするメカニズム解析を行うことが出来なかったが、ビフィズス菌の新たな作用経路およびその活性成分の同定を達成することが出来ており、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
【大腸上皮増殖促進効果に寄与するEPS構造の解析】 これまでの解析により、大腸炎抑制および大腸上皮増殖促進効果を有するビフィズス菌株は特異的なEPS合成遺伝子クラスターを有することを確認している。その一つとして、有効菌株のEPS合成遺伝子クラスターにはrhamnosyltransferaseが含まれており、EPSにラムノース残基が含まれると予想される。そこで、有効菌株および非有効菌株のEPSを単離精製し、糖鎖構造などのEPSの構造解析をメチル化分析、NMR分析、HPLC定量などで行う。また、rhamnosyltransferaseを始めとする有効菌株EPS合成遺伝子クラスターに特異的にみられる遺伝子の欠損株を作製し同欠損株由来EPSの活性変化を解析する。これらの解析により、大腸上皮増殖促進効果に寄与するEPS構造を決定する。 【ビフィズス菌およびEPSによる大腸上皮増殖促進メカニズムの解析】 これまでの報告で、EPSは宿主のToll様受容体(TLR)2または4を介して宿主細胞にシグナルを伝達することが明らかになっている。そこで、本研究で単離されたビフィズス菌株由来のEPSもTLR2またはTLR4のリガンドとして作用するのか解析を行う。各TLRをHEK293T細胞に強制発現させレポーターアッセイによりEPSの受容体を探索する。また、ヒト腸管上皮様株化細胞であるCaco-2細胞を用いてビフィズス菌およびEPSによる細胞増殖促進に寄与する細胞内シグナル経路を解析する。本年度、有効菌株およびEPSはCaco-2細胞のERKリン酸化を促進することでβ-catein転写活性を促進することを確認している。そこで、ERK経路の上流および下流を中心に細胞増殖促進効果に関与する経路を探索する。また、Caco-2細胞で得られたデータをもとに、in vivoでの再現性を大腸炎モデルマウスを用いて確認する。
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