研究概要 |
本研究は、担糸菌ケロウジから抽出された天然物(-)-scabronine Aの世界初の不斉全合成と、その合成研究の過程で得られるscabronine誘導体の構造活性相関研究を目的とした。本天然物の有する神経成長因子の合成促進活性は、現代の医学では根本的治療の困難なアルツハイマー病の新規治療薬となり得る可能性を秘めている。しかしながら、これまでに(-)-scabronine Aのみならず、その類縁体をも効率的に合成する方法はなかった。そこで筆者は、次の2つの反応と鍵する効率的な合成を計画し、これによって研究課題の一つである(-)-scabronine Aの世界初の不斉全合成を達成した。その一つ目が、芳香族化合物の酸化的脱芳香族化/逆電子要請型Diels-Alder反応(oxidative dearomatization/inverse-electron-demand Diels-Alder (IEDDA) cascade)であり、二つ目がoxa-Michael付加反応を起点とした連続反応(oxa-Michael cascade)で、本連続反応によって7員環上に存在する連続不斉中心と架橋アセタール環構造を一挙に構築し、(-)-scabronine Aの初の不斉全合成を27工程、総収率10%で達成した。また、本合成はscabronine類の予想される生合成経路を模倣した方法であるため、その他の類縁体、すなわちscabronine B, C, D, G、episcabronine Aの不斉全合成も合わせて達成することができた。 本合成研究によって天然物以外のscabronine類縁体を30以上合成することに成功した。そこで、本研究によって合成したいくつかの天然物と天然物以外の類縁体を用いた構造活性相関研究を行った。その結果、活性発現に必要な部分構造の推測をすることができた。
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