研究課題
フグ毒テトロドトキシン(TTX)は強力な神経毒であり、世界中で食中毒例が報告される。TTXの生合成経路に関わる出発物質、酵素、反応などは未だに一つも同定されていない。このTTXの生合成経路解明の手掛かりを得るため、新規TTX類縁体(生合成中間体)の構造決定を目的とした。フグ、イモリなどの生物から毒成分を抽出し、質量分析装置を駆使した網羅的な探索を実施した所、新規TTX類縁体と予想される化合物を数種検出した。新規TTX類縁体を各種クロマトグラフィーにて精製し、フグから1種、イモリから2種の新規TTX類縁体を構造決定した。ヒガンフグ卵巣から得られた新規TTX類縁体(6-deoxyTTX (1))は、TTXの6位水酸基が還元された構造を有していた。これまで我々は、酸化度が一段階ずつ異なるTrX類縁体(deoxy-TTXs)を天然から同定し、海洋ではTTXが酸化的代謝経路を経て生成すると考えてきた。今回得た1は、我々の想定する酸化経路に従う化学構造を有しており、他のdeoxy-TTXsと同様、TTXの前駆体だと考えられた。更に、培養細胞を用いて新規TTX類縁体(1)の生理活性、即ち電位依存性ナトリウムチャネルへの阻害能を調査した。他の類縁体の生理活性と比較し、これまで詳細は不明であった「TTXの持つ6位、11位水酸基と生理活性との関係性」を調べた。今回の結果から、6位、11位水酸基は共に生理活性に寄与しているが、11位水酸基の有無がより生理活性に対して大きな影響を持つということが判明した。イモリから得られた2種の新規TTX類縁体(2,3)は、これまで報告例のない興味深い骨格構造を有していた。様々なイモリの毒成分を調査した所、今回発見した新規TTX類縁体のうち片方(2)は、世界中のイモリにほぼ共通して存在していたため、陸上のTTXの生合成経路において、重要な中間体である可能性が示唆された。2の化学構造から新たなTTXの生合成経路を考察できたため、意義深いものであったと考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的であったフグ毒テトロドトキシン(TTX)の新規類縁体をフグ、イモリから得ることが出来た。フグから得られた新規TTX類縁体の生理活性試験を行うことで、TTXの構造活性相関研究の一助とすることが出来た。イモリから得られた新規化合物はこれまでにない骨格を有しており、TTXの生合成経路を考える上で重要な化合物だと考えられた。
これまでの研究成果から、海洋、陸上におけるテトロドトキシン(TTX)の生合成経路について、様々な考察をしてきた。生合成経路について更なる手がかりを得るため、引き続き天然から生合成中間体の探索・同定を行っていく予定である。更に有毒生物の毒成分の組成を詳細に解析し、知見を深める。一方で、陸におけるTTXの生産者が不明確であるため、イモリの毒の起源について解明したいと考えている。現在議論されている、「イモリの毒が内因性であるか、外因性であるか」を明らかにし、生合成研究に役立てたい。
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Journal of Natural products
10.1021/np401097n(publishedonline,21^<st>March,2014)
Marine Drugs
巻: 11 ページ: 2799-2813
10.3390/md11082799
http://www.agri.tohoku.ac.jp/bukka/index-j.html