研究実績の概要 |
1. フグ毒テトロドトキシン (TTX)は強力な神経毒であり、世界中で食中毒例が報告される。TTXの生合成経路に関わる出発物質、酵素、反応などは未だに一つも同定されていない。このTTXの生合成経路解明の手掛かりを得るため、新規TTX類縁体 (生合成中間体)の構造決定を目的とした。質量分析装置を用いた網羅的な探索を実施し、これまで予想されていなかった特徴的な骨格構造を持つTTX類縁体、4,9-anhydro-10-hemiketal-5-deoxyTTX (2)と4,9-anhydro-8-epi-10-hemiketal-5,6,11-trideoxyTTX (3)をオキナワシリケンイモリから得た。これらの成分の生合成経路上の位置づけを考察するため、各種生物の毒成分を分析した結果、化合物2が日本、中国、アメリカの有毒イモリ6種に共通して存在していた。更にTTXと化合物2の含有量を解析すると高い相関関係が示され、化合物2が重要な生合成中間体であることが示唆された。また、この相関関係と化合物2, 3の化学構造から、TTXの生合成の出発物質がモノテルペン (ゲラニル二リン酸)である可能性を示した。更に、TTXと化学的に等価な4,9-anhydroTTXを経由するTTXの生合成経路の最終段階についても考察した。 2. イモリの毒の起源については内因性か、外因性か未だに議論中であるため、生合成研究の一環としてこの点についても追及した。研究室内で有毒イモリの卵を孵化させ、無毒の餌で70週齢になるまで飼育した後、毒量を調べた。その結果、幼体の飼育イモリからTTXは検出されず、毒の生産は確認できなかった。その一方で、同じ生息地で捕獲した野生のイモリ(幼体)からは、TTXとその類縁体が多量に含まれていた。これらの結果はイモリの毒が外因性であることを強く示唆していると考えられる。
|