本研究の目的は、酸化絶縁(SiO2)膜の存在がSiナノ構造中のフォノンとキャリアの振る舞いに及ぼす影響を原子レベルで明らかにし、熱の振る舞いを配慮したデバイス性能向上のための設計指針見を得ることである。昨年度までに、SiO2膜に覆われたSiナノ結晶のフォノン・エネルギー分散関係を明らかにし、酸化誘起の界面ラフネスが電気伝導に与える影響を明確にしている。本年度は、κ低下の本質的な起源を調査するため、分子動力学(MD)法を用いて酸化被膜型SiNWのエネルギー分散とκを解析した。そして、その相関からκ低下の物理的起源を原子レベルで解明した。 κの酸化膜厚依存性を解析したところ、SiNWのκはSiO2膜厚の増加とともに低下ことが分かった。また、MD計算で得られたκの低下は、断面を占めるSiとSiO2の断面積比では単純に説明することができないことが分かった。そこでκとフォノンのエネルギー分散関係の関連を調べたところ、SiO2膜によって誘起される無秩序な振動状態の強度とκの低下量との間には強い相関があることが明らかになった。無秩序な振動状態は、SiO2/Si界面近傍に存在する格子配置の乱れたSi原子の振動成分であると考えられる。 酸化誘起の振動状態がκに与える影響をさらに明確にするため、音響フォノンの状態密度(VDOS)とκの相関をさらに解析したところ、κ低下はVDOSの面積よりも新奇に発現した無秩序な振動状態の強度と強い相関をもつことが判明した。これらの解析結果は、結晶構造の乱れ、特にSiO2/Si界面付近の格子配置の乱れが、低エネルギーの振動状態を無秩序に誘起し、それがκの特殊な振る舞いの物理的起源になっていることを意味している。 本研究は、次世代Siナノデバイスの性能を最適化するためにはまずSiナノ結晶の結晶性を把握することが必須であるという工学応用上重要な知見を提供している。
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