本研究課題では、電動車椅子の行動制御に適したブレインコンピュータインタフェース(BCI)の実現を目的とした。前年度までの研究では、瞬目時に生じる眼電図の変化を特徴量として意図的に行う瞬目を検出し、電動車椅子への前進・右折・左折の入力に応用することに成功した。しかしながら、瞬目により特徴付けられる眼電図変化の種類は少なく、後退や斜め方向への移動などを実現することは出来なかった。本年度はこの問題を解決するために、脳波を用いたBCIにより検出可能な視線方向を用い、電動車椅子の制御へ応用することを目的とした。 本研究では、光刺激を注視した際に生じる視覚誘発電位(SSVEP)という脳波特徴を用いた。従来のSSVEP型BCIでは、PCモニタ上に異なる周波数で点滅する複数の光刺激を表示し、誘発されたSSVEPを解析することでユーザが注視している光刺激を特定し、視線方向を特定することができた。SSVEP型BCIでは周波数の種類を増やすことで、視覚刺激の数(すなわち、制御コマンドの数)を増やす事ができる。しかしながら、周波数の種類の増加に伴い、注視刺激の特定精度が低下することが問題とされてきた。この問題を解決するために、(1)周波数に加えて位相情報を用いることで各刺激が持つ情報量を増加させ、(2)誘発されたSSVEPから注視刺激を特定する適切な手法を提案した。これら二つの解決策により、多数の制御コマンドから一つを高精度に入力可能なBCIシステムの実現可能性を示した。さらに、オンラインBCIシステムを構築し、リアルタイム視線追跡が可能であることを示した。
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