研究課題/領域番号 |
13J05703
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松尾 文香 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 内分泌撹乱 / ビスフェノールA / ショウジョウバエ / 時計遺伝子 / 歩行活動リズム / 多動性症状 / 核内受容体 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
ビスフェノールA(BPA)はポリカーボネート樹脂などの原料化合物であるが、こうしたプラスチック製品から漏出したBPAが乳幼児脳の神経系や生殖腺系へ及ぶ悪影響が懸念されており、一刻も早くBPAのシグナル毒性の本質を分子レベルで解明することが期待されている。我々はヒトのモデル生物であるショウジョウバエにBPAを食餌させて歩行活動リズムを解析し、BPA食餌ハエでは野生型と比較して活動量が大幅に増加した多動性症状が現れることを見出した。本研究の最大の目的は、この発見を基点として、BPAによる歩行活動リズムの形成に関わる遺伝子への影響を解析することでBPAの悪影響を分子レベルで解明することである。 本年度は、時計遺伝子、神経ペプチド遺伝子、マイクロRNAに着目し、塩基配列解析、発現量解析を実施した。その結果、ほとんどのmRNA発現量が変化しており、特に神経ペプチドで朝方の活動形成に関わるPDFをコードするpdf遺伝子と、夕方の活動形成に関わるITPをコードするitp遺伝子の両方で発現量が減少していることが分かった。BPA投与がpdfとitpの両方において発現量が減少する原因と、活動量増加の原因はリンクすると見られ、これらの接点の解析が必要なことが始めて明らかになった。 一方、BPA食餌はどのようにして遺伝子の発現量を変化させるのか?の課題解決にも取り組んだ。3齢幼虫の株化神経培養細胞・BG2-c6を用いて、BPA暴露によるBPAメチル化の状態を調べた。BPA暴露48時間後にゲノムDNAのメチル化シトシン量を解析・比較したところ、DNAメチル化量が有意に増加していた。次いで、DNAメチル化と遺伝子発現が核内受容体を介した現象であるかを、BG2-c6を用いたルシフェラーゼ遺伝子アッセイ系を構築して調べることにした。現在、ショウジョウバエ核内受容体21種について解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書には2年目の計画として、夕方活動リズムを調節する神経ペプチドの発現リズム解析と多動性症状への関与の検討を予定していた。当初はhugγのみを対象にしていたが、夕方の活動リズム形成にはhugγの他にもPK2、ITP、NPFというペプチドも関与しているため、すべてに対して発現量解析を行った。また3年目に予定していたBPAによるDNAメチル化への関与についても着手しており、さらに計画を越えてショウジョウバエ培養細胞を用いた核内受容体のルシフェラーゼ遺伝子アッセイ系の構築に至った。このことから、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ショウジョウバエにBPAを食餌させることによる時計遺伝子や活動形成に関わる遺伝子について、その発現量と塩基配列解析を実施してきた。また、BPA食餌ハエは野生型ハエに比べてメチル化DNAの割合が高いことが分かり、これにより遺伝子発現量が変化しているものと考えられる。しかし、なぜ、BPA食餌によりDNAがメチル化されるのか、どの遺伝子が直接メチル化されて発現量が変化しているのか、という根本的な疑問に切り込む必要がある。今後は、BPAによるDNAメチル化の増加が、DNAメチル基転移酵素を介した既知の経路で進んでいるのか、核内受容体を介しているか調べるために、DNAメチル基転移酵素を阻害して解析する。またゲノムワイドな解析により直接メチル化を受ける遺伝子を特定し、環境化学物質による内分泌撹乱作用の根底を解明したい。
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