研究実績の概要 |
本年度は,共感が援助を導く機構に関して、2つの実験と2つの調査,1つの追加解析を含む5つの研究を行った。実験研究では、近赤外分光法(NIRS: near-infrared spectroscopy)による脳活動計測を用い,感情と他者の心的状態の推測に関する研究,情動調節に関する研究を行った。前者の研究より,不快感情の他者の心的状態の推測への効果が対人場面固有の処理過程を促進し、この促進効果に前頭前野外側部(LPFC: lateral prefrontal cortex)が関与することが示された。後者の研究では,感情を調節している際のLPFC活動が,苦境にある他者への不快感情の共有を抑制し、援助を動機づける傾向にあることが示された。これらの結果は、不快感情の他者の心的状態の推測に対する妨害効果(Himichi, Fujita, & Nomura, in press)、LPFCが他者の苦境への感情の共有及び援助を促進すること(Himichi & Nomura, in press)を示した研究と異なった結果である。これは,共感・援助に対する不快感情の影響の方向性(促進・抑制)を調節する要因が存在することを示唆する。さらに、他者の苦境への共感におけるLPFC活動と援助の関係性を示した以前の実験データ(Himichi & Nomura, in press)にセロトニン2A受容体遺伝子多型データを加え、追加解析を行った。その結果、当遺伝子多型が苦境にある他者への共感におけるLPFC活動に影響することが示唆された。 また、調査研究では,共感性を測定する対人的反応性指標を翻訳し,当尺度の信頼性・妥当性が十分であることを確認した。さらにその尺度を用い,共感性が衝動性・マインドフルネス傾向などの個人特性と関連する否か,別の調査により検討している。現在,そのデータを解析中である。
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