研究概要 |
本研究の目的は, 日本列島における古代国家形成過程を, 物質文化の生産・流通から明らかにすることである。特に, 政治的目的をもって日本列島において生産・流通が行われた銅鏡(倭製鏡)を分析の対象とし, 物質文化のコントロールによる近畿中央政権の政治戦略・志向性の解明を目的とする。目的達成のため, 銅鏡のデザイン・製作技術・流通と消費の分析および原材料の化学分析を進めている。平成25年度は以下の項目を中心に研究を行った。 1. 資料の実見。鳥取市教育委員会, 鳥取県埋蔵文化財センター, 新穂歴史民俗資料館, 高松市埋蔵文化財センター, 香川県立ミュージアム, 香川県埋蔵文化財センター, 坂出市教育委員会, 丸亀市教育委員会が所蔵する銅鏡の資料調査を行った。方法は, 熟覧・写真撮影・断面実測が中心である。その結果, 古墳時代前期における銅鏡生産の変化について, 特に銅質や製作技術の点から確認することができた。 2. 製作実験および化学分析。8月に, 東大阪市の上田合金にて, 銅鏡の製作実験を行った。製作工程を見学, 一部を実践することで, 銅鏡製作の実態を学んだ。この際に製作した2面の銅鏡は, 「同じ湯で同じ場所・同じ時期」に作られた製品のサンプルとして, 今後化学分析を行う予定である。また, 日本文化財科学会への参加により, 鏡を含む青銅製品の化学分析に関する発表を聞き, 研究者と方法や解釈について議論し, 多くの知見を得ることができた。 3. 前方後円墳の発掘調査。9月に福岡県桂川町所在の金比羅山古墳の発掘調査に参加した。本古墳は九州地方に造営された, 全長約80mの大型前方後円墳であり, 古代国家形成過程における地域間関係を考えるうえで重要である。墳丘範囲・構築方法の解明を目的とした発掘調査であり, 多くの知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目標としていた, 考古学的成果の一部についての発表・論文執筆ができなかった。また, 化学分析について, 本格的な実践に至ることができなかった。しかしながら, 両者とも, 基礎的な準備は終えており, 平成26年度には実行可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本としては, 当初の予定通り, 銅鏡のデザイン・製作技術・流通と消費の分析および原材料の化学分析を軸に, 古代国家形成過程の各時期(古墳時代前期・古墳時代中期・古墳時代後期)ごとに分析を進めていく予定である。一方, 平成25年度に研究を進めていくなかで, 小型の鏡の生産・流通の問題に関心を持った。当該期に日本列島で生産・流通していた銅鏡の面径は一定ではない。近畿中央政権は大小の鏡を配り分けることによって, 授与される側の序列化を図っていたと考えられている。つまり, 小型鏡の生産・流通は, 近畿中央政権による下位首長の把握や, 両者の関係性の形成を考えるうえで重要な課題である。さらに, 一部の小型鏡は, 近畿中央政権が関与せず, 各地で独立して生産されていた可能性も指摘されており, 問題の整理・解決が必要である。このような問題を踏まえ, 上記の研究に加え, 小型鏡に着目した分析も進めていく予定である。
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