申請者の研究目的は,日本列島における古代国家形成過程を,物質文化の生産・流通から明らかにすることである。特に,古墳時代に政治的目的をもって生産・流通が行われたとされる銅鏡(倭製鏡)を分析の対象とし,物質文化のコントロールによる近畿中央政権の政治戦略・志向性の解明を目的とする。平成27年度は以下の項目を中心に研究を行った。 1.小型鏡の生産と流通。昨年度に引き続き重圏文鏡と,新たに珠文鏡を対象に分析を行った。その結果,古墳時代前期の倭製鏡の生産開始が重圏文鏡や珠文鏡のような小型鏡の製作を経て成立・完成したという変遷過程を提示した。この成果は12月に平成27年度九州史学会にて発表した。今後は今回明らかとなった銅鏡生産の成立過程を踏まえ,古墳時代開始期における物質文化のコントロールの成立やその評価から,当時の社会動態を考察していくことを課題とする。 2.資料の実見。九州・中四国・関西・関東など全国各地から出土した銅鏡の調査を,熟覧・写真撮影・断面実測を中心に行った。文様が単純な小型鏡において製作技術の肉眼観察は有効な手法であり,遠隔地から出土する小型鏡の技術的共通性を確認することができた。 3.関連遺跡の調査。福岡県桂川町所在の天神山古墳の発掘・測量調査に参加した。本古墳の範囲確認や構築方法の解明は,当地域の古代国家形成過程を考えるうえで重要な調査である。倭製鏡の生産・流通は汎列島的な視野が必要であるが,同時にそれが授与された地域社会の状況も重要な課題である。
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