カタバミ葉に含まれる幼虫の摂食刺激物質を、新規に開発した人工飼料生物試験法でモニタしながら分画した。葉のメタノール抽出物を1グラム生葉当量添加してヤマトシジミ幼虫に与えると、幼虫は飼料を摂食し成長したことから、葉に摂食刺激物質が存在し、それはメタノールで抽出されることが明らかとなった。各画分を人工飼料生物試験に供試し、摂食刺激活性を幼虫の乾燥糞重量で評価した結果、摂食刺激活性は、分画後に残った水画分に認められた。水画分をさらに、酸性・中性・塩基性の三画分に分画すると、活性は酸性画分に局在した。機器分析により、酸性画分の主成分としてシュウ酸を検出した。塩化カルシウム沈殿法で水画分からシュウ酸を除くと摂食刺激活性が失われたこと、沈殿濾過後の失活した濾液にシュウ酸を加えると活性が回復したこと、および標品のシュウ酸を用いた人工飼料生物試験で活性が認められたことから、幼虫の摂食刺激物質をシュウ酸と同定した。次に光環境の強弱が異なる野外の七地点からカタバミの葉の化学的性質を比較するとともに、これらの葉に対する幼虫の摂食行動を評価した。七地点の光強度が高い地点由来のカタバミは、シュウ酸の含量が有意に高く、光強度が低い地点ではそれらが低かった。また、幼虫の摂食量は、二次代謝産物の含量と同様に光強度の強弱と摂食量の多少が一致した。従って、光環境の強弱はカタバミの質に影響を与え、それに呼応して幼虫の摂食行動が変化すると示唆された。さらに光の強弱を人工的につけた環境でカタバミを栽培し、葉に含まれるシュウ酸含量と幼虫による摂食量を解析したところ、野外と同様に光強度の強弱とシュウ酸含量および摂食量の多少の傾向が一致した。環境因子(光強度)-寄主植物(カタバミ)-食植性昆虫(ヤマトシジミ幼虫)の三者関係を、摂食刺激物質という具体的な物質を鍵として化学生態学的に解明した点は意義深いと思われる。
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