研究概要 |
本研究の対象種であるキューバに生息するアノールトカゲ3種(Anolis sagrei, A. homolechis, A. allogus)は、森林内の樹幹から地面という共通の活動範囲を利用しているが、それぞれ森林の開けた場所、森林縁部、そして森林の深部(順同)に生息しており、微環境間に生じている気温差にそれぞれが適応している。異なる温度環境への適応機構を解明するため、平成25年度は当該3種の生理的応答、代謝に関与する形質について研究を行った。爬虫類の代謝に関わる遺伝子は先行研究からいくつか注目されているが、どの遺伝子が異なる温度環境への適応に関与しているのかは解明されていない。本研究では、当該3種を実験室内で一定の温度環境下(26℃と33℃)で飼育した後、次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を行い、温度変化に応答する遺伝子の同定を行った。解析の結果、先行研究で報告されているようなエネルギー生産に関わる遺伝子のみならず、ストレス応答や細胞自体の統合性に寄与する遺伝子群が検出された。つまり、変温動物であるアノールトカゲが異なる温度環境へ適応する際には、各々が生息する温度環境下おいてエネルギー生産を効率的に行こと、さらにはそれぞれが経験する温度ストレスに適切に対処できる機構が必要であったと考えられる。今後、変温動物が温暖化によって変動する温度環境に適応できるかは、変温動物特有の代謝調節に加え、温度ストレスによる細胞への負荷を的確に緩和できるかどうかも重要な要因である可能性が示された。
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