研究実績の概要 |
外温性動物において、環境の温度は生存や繁殖成功を左右する重要な要因である。トカゲ類において、温度環境に適応するには、外気温を感知するための温度感知形質、日光浴や姿勢変化などによって体温を行動的に調節する温度調節形質、そして獲得した体温下での生理的応答を行う温度依存形質の三つが考えられる。本研究では野外において異なる体温を維持するアノールトカゲ三種(Anolis allogus, A. homolechis, A. sagrei)に注目し、これら三形質を包括的に研究することで、温度適応機構の解明を目的とした。本年度では、温度依存形質について前年度までの研究成果をまとめ、国際誌へ論文を投稿することを目的とした。温度感知形質と温度調節形質については前年度まで進めてきた解析を完了させ、論文投稿までを目的とした。 アノールトカゲ三種の温度感受能の分化を検証するため、高温刺激に対する忌避行動と、高温感受性TRPであるTRPA1の活性化温度の種間比較を前年度に引き続き行なった。 その結果、低温環境に生息する種(A. allogus)において、中温または高温環境に生息する種(A. homolechis, A. sagrei)に対し、比較的低い温度刺激で忌避行動が誘発された。さらに、A. allogus のTRPA1においても他二種に対し低い温度で活性化した。この結果は、高温に対する行動と分子の温度感受性が相関しているだけでなく、選好する温度環境とも相関しており、種間で温度感受性が分化していることを示唆している。温度感受性TRPの近縁種間における機能分化を明らかにし、野外におけるトカゲのニッチ選択との関連を示した今回の結果は世界に先駆けた研究である。 前年度までに進めてきた温度依存形質に着目した研究については、Molecular Ecologyに受理された。今年度は、目的としていた追加解析も完了し、前年度までの成果も論文として発表することができ、計画に沿って研究を遂行することができた。
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