研究実績の概要 |
【問題】養育者は乳児に対して語りかける時、対乳児発話と呼ばれる誇張された音韻特徴を持つ話し方をする。日本語圏では対乳児発話として擬音語や擬態語(オノマトペ)がしばしば用いられる。乳児は生後早期から他者の音声に対して注意を向ける。音声の韻律的特徴は、生後6ヶ月児の視覚的物体の学習の手がかりとして機能し(Shukla et al., 2011)、音素は生後12ヶ月以降の視覚的物体との対応付けの手がかりとなる(Werker et al., 1998)。一方、視覚的な物体運動に対する乳児の注意の向け方に関しては、音素と韻律がそれぞれどのように影響するのか、その発達的変化は明らかでない。本研究では、音声中の異なる音韻特徴(i.e.,ピッチと音素)を操作し、視覚刺激に対する乳児の注意パターンの発達的変化を視線計測により検討した。今年度は実験1の追加実験として実験2を実施した。実験2は音素操作として無意味語単語を使用した(音素変化条件)。乳児の語彙レベルを母親に対する質問紙により評価した。 【結果と考察】音素不明瞭および音素変化条件では、音素変化は16ヶ月児の注視時間減少をもたらした。音素の変化は、16ヶ月児が視覚的物体運動との対応関係を知覚するための手がかりとして機能することが示唆された。一方、ピッチ変化に対しては、乳児の月齢によらず注意の増加をもたらした。この結果は、対乳児音声で見られるピッチの調整が、乳児の注意を誘引し、維持する機能を持つとする見解(Cooper & Aslin, 1990)に一致する。また、質問紙との相関分析により、音素を手がかりに視覚的物体運動と音声を対応づける乳児は、オノマトペ理解語彙数や発語数が多いことが示唆された。
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