本研究では、HSC(肝星細胞)を標的とした後に、効率のよいsiRNAの細胞内動態を考慮した薬物送達キャリアの開発を行った。。HSCはコラーゲンの過剰な産生を介して肝線維化に寄与していると言われている。これまでに得られた知見を基に、構造内にリガンド機能とpH応答性を有する脂質様物質を用いた。当研究室の秋田らは、酸性環境と細胞内還元的環境に応答して活性化を受ける脂質様物質Palmの開発に成功している。さらに、HSCを標的とするためPalmの足場として脂溶性ビタミンであるビタミンAを骨格内に有するPalmA脂質を用いた。HSCは体内で多くのビタミンAを貯留する細胞と呼ばれており、ビタミンAを含有するPalmAを粒子化することにより、HSCへの薬物送達キャリアが創製可能であると期待される。PalmAの対照としてビタミンE、あるいはミリスチン酸を足場に持つPalmE、PalmMを用い、3種類のsiRNAナノ粒子化を行った。四塩化炭素の持続的投与により作成した肝線維化モデルマウスに対して、コラーゲン1a1に対するsiRNAを含む3種類のナノ粒子を投与し、遺伝子抑制効果を測定した。その結果、0.5 mg/kgにおいてPalmAにおいてのみ有意な抑制効果が認められた。また、HSCの培養細胞株を用いて3種類のナノ粒子のHSCへの細胞内取り込みを評価した。その結果、PalmM、Eと比較してPalmAではHSC細胞株に、より多く取り込まれることが明らかとなった。肝線維化モデルマウスを用いた治療実験では、siRNAによる遺伝子配列特異的な抑制効果が得られたとともに、PalmAを組み込んだナノ粒子で繊維化の改善が認められた。今後、さらなる遺伝子抑制効果の向上とともに製剤安定性の向上へも取り組んでいきたい。
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