本研究課題は、「衛星観測を援用して水循環と陸上の植生動態が相互作用するようなモデルを構築し、世界最高水準の気象-水文-陸上生態系カップリングシステムを開発すること」を目的としている。平成27年度は(1)地上観測実験に基づいた新しいマイクロ波陸域観測アルゴリズムの確立、(2)植物の干ばつへの適応戦略のモデリング、(3)陸域データ同化システムを用いたアフリカ地域の干ばつモニターの開発について研究を行った。 (1)では前年度までに積み上げてきた地上観測実験の知見を元に、水循環観測衛星「しずく」を用いて陸域の土壌水分量と植生水分量を同時に推定するアルゴリズムを開発した。新しいアルゴリズムでは「しずく」によるマイクロ波観測と、別の衛星による可視・近赤外領域の衛星観測を独自の方法で組み合わせることで、これまでに無い精度での観測を実現した。観測精度をオーストラリアの現地観測サイトで検証した。 (2)ではオーストラリアのミレニアム干ばつにおいて、オーストラリア南西部の植物が水不足にどのように応答したかをリモートセンシングと数値モデルを組み合わせて解析した。生態系が干ばつによってバイオマスの全体量を減少させる一方で、光合成を行う葉の量をそのまま維持することで干ばつに耐えているメカニズムを提案し、それを説明できる数値モデルを構築した。この成果は今後の陸域生態系モデルの発展に寄与するものである。 (3)では前年度までに開発を完了した水文-陸上生態系結合同化システム(CLVDAS)をケニア・エチオピア・ソマリア地域に適用し、干ばつモニターを開発した。この干ばつモニターと季節予報を組み合わせることで、2011年にこの地域を襲った大干ばつにおける農業生産力の低下を最大10ヶ月前から予測できることがわかった。この研究は社会問題解決に向けた我々の気象-水文-陸上生態系カップリングシステムの応用事例である。
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