研究概要 |
人体周辺のウェアラブル機器等を相互に接続する無線通信技術として, 人体を信号の伝送路とする「人体通信」がある. 本研究の目的は, 人体通信機器の装着箇所, 周波数帯といった仕様に対して, 高性能・低消費電力な機器の設計指針を確立すること, そのためのツールを開発することである. 本年度は, 人体組織と電磁波の相互作用の観点から, 人体通信の諸特性へ与える影響が大きい組織が皮膚, 脂肪, 筋肉であることを明らかにした. さらに, その三組織を積層化し, 実人体腕部と電気的に等価な多層簡略モデルの開発を行った. この多層簡略モデルは変形加工が容易かつ少ない計算機資源で利用でき, 実用的なレベルで解析誤差も小さいため, 高い工学的有用性を持つと考えられる. 次に, 人体通信の実験評価に用いる, 皮膚, 脂肪, 筋肉の各生体組織と等価な電気的特性を有するファントムの開発を行った. まず, 10MHzにおける接触型人体通信の評価における脂肪および筋肉ファントムの電気的特性が, 目標となる実組織の特性と厳密に一致せずとも, 測定結果に対する影響が小さいことを解析的に明らかにした. 次に, 材料の調整により, 10MHzにおいて使用可能な筋肉および脂肪ファントムの作製に成功した. さらに本年度は, ヘッドセットや補聴器等の頭部両側に装用するウェアラブル機器間の人体通信に着目し, その伝送メカニズムについて検討した. 送受信機に二電極構造を用いた場合には, 送信機直下の部分に比較的強い電界が分布し, 人体内部を電界が貫く状態で送信機から受信機へ伝搬することが確認された. 一方で, 送受信機に一電極構造を用いた場合には, 人体内部にはほとんど電界が浸透せず, 人体周囲を電界が伝搬して伝送が行われることが確認された. また, 10~30MHzの範囲での周波数変化に対しては, 送受信機間の伝送特性, 人体周囲の電界分布に顕著な変化はないことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電磁界解析用の簡略人体モデル開発は, 予定通り進んでいる. さらに, 今後の普及が見込まれる頭部両側に装用したウェアラブル機器間の人体通信についても, その伝送メカニズムを解明した. 一方, 生体等価ファントムのうち皮膚ファントムの開発が課題として残っている. 全体として研究は順調に進んでおり, 大幅な計画変更は必要ない.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は, 開発した簡略人体モデルおよびファントムを用いて, より実用的なレベルの電磁界解析と実験評価を進める. 具体的には, 人体各箇所に装着するアンテナ電極の構造・寸法に対する電極入力インピーダンス特性や, 人体周辺の電界分布について検討を行い, 伝送効率を最大化し消費電力を低減する電極および人体通信に最適なインピーダンスのフロントエンド回路設計を行う. また, 設計した電極と回路を実験的に評価するためにウェアラブル測定治具の開発をすすめる. これらの結果を総合することで, 本研究の目的である人体通信機器の設計指針を確立する.
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