研究課題/領域番号 |
13J05924
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村松 大陸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 人体通信 / ボディエリアネットワーク / ヒューマンインターフェース / ウェアラブル機器 / アンテナ / 数値電磁界解析 / 生体等価ファントム |
研究実績の概要 |
人体に装着したウェアラブル機器や,人体周辺の機器を相互に接続する無線通信技術として,人体を信号の伝送路とする「人体通信」がある.本研究の目的は,人体通信機器の装着箇所,周波数帯といった仕様に対して,高性能・低消費電力な機器の設計指針を確立すること,そのためのツールを開発することである.本年度は,実人体腕部と電気的に等価な多層簡略モデルの開発を行った.本モデルにより,1 MHz~1 GHzという広帯域において,実用的な解析誤差の範囲で人体通信電極の入力インピーダンスが計算可能であることを確認した.この多層簡略モデルは変形加工が容易かつ少ない計算機資源で利用でき,高い工学的有用性を持つ.また,三層構造ファントム皮膚層の電気的特性の変化が人体通信電極の入力インピーダンスに与える影響について検討した.電磁界解析の結果,皮膚層の比誘電率および導電率が±20%の範囲で変化した場合でも,電極入力インピーダンスに最大で20%以内におさまることが明らかとなった.得られた知見にもとづき,三層構造ファントムの試作を行った.さらに,スマートウォッチ等を装着したユーザが自動販売機等の設置型機器に触れることで電子マネーデータを送受信する人体通信システムを想定した電磁界解析を行った.解析周波数10 MHzにおいて,指先が電極に接触している状態では送受信機間の伝送特性S21は-56.0 dBであり,指先と電極の間に5 mmのギャップが生じるとS21は18 dBと大幅に減衰した.一方で,ギャップを大きくした場合には1.4 dB/5 mmでS21は減衰した.この結果より,指先がわずかでも電極から離れると大幅に送受信機間の伝送特性が劣化し通信不可能になると考えられ,人体通信を,ユーザの接触動作をトリガとし通信する新たなヒューマンインターフェースとして利用できる可能性が示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
人体通信の応用が想定される様々な条件下の伝送特性を数値電磁界解析により計算し,人体通信システムの設計につながる知見の集積を進めている.実用的なアプリケーションを意識した解析結果は,他の類似研究に比べて有用性が高い.また電極入力インピーダンス特性や伝送特性の測定実験に用いるファントムとして,三層構造ファントムを提案し,その特性解析を進めるとともに試作を行った.研究成果の公表は国際会議での発表や学術誌への論文投稿により着実に行っている.平成27年度は研究をまとめる最終年度であり,人体通信機器の設計指針確立に向けてさらに研究を進めることが期待される.
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,これまでに開発を行った簡略人体モデルおよび試作した三層構造ファントムを用いて,より実用的なレベルの電磁界解析と実験評価を進める.具体的には,想定する様々なアプリケーションごとに,人体各箇所に装着するアンテナ電極の構造・寸法に対する電極入力インピーダンス特性や,人体周辺の電界分布について検討を行い,伝送効率を最大化し消費電力を低減する電極および人体通信に最適なインピーダンスのフロントエンド回路設計を行う.また,設計した電極と回路を実験的に評価するために,電池駆動のウェアラブル測定治具開発の開発をすすめる.同時に,受信側には必要に応じてバッテリ駆動も可能な小型スペクトラムアナライザを用い,受信機器の接地状態による通信特性の変化についても検討する.これらの結果を総合することで,本研究の目的である人体通信機器の設計指針を確立する.
|