本年度は研究計画の2年目として、主に、前年度にフランスのセーヌ‐マリティーム県文書館で行った資料調査を基に、論文執筆に努めた。 本年度は1本の論文を執筆することができた。 論文「14世紀前半ノルマンディ地方三部会における王権と地域住民」は、2015年3月に刊行された学術雑誌『エクフラシス―ヨーロッパ文化研究―』5号に掲載された。本稿は、前年度12月に京都大学で開催された関西中世史研究会での報告「百年戦争前半期フランス王権によるノルマンディ支配と在地住民―14世紀中葉のノルマンディ地方産部会を中心に―」の前半部の原稿に加筆修正を加えたものである。 本稿では、英仏百年戦争という混乱期において、フランス王権がどのように在地貴族層との関係を維持・発展させ、地域を統治していったのかを、ノルマンディ地方三部会を通して検討した。研究対象期間はノルマンディ地方三部会が成立した14世紀初頭から、ノルマンディの三身分に国王課税の徴収・管理・運営が認められた1348年のノルマンディ地方三部会までと設定した。本稿の内容は、ノルマンディ地方三部会における王権と在地貴族層の交渉や、同三部会における決定等から、百年戦争という混乱期における王権による地方統制のあり方を検討した。地方三部会の史料、特に議事録などはほとんど残存しておらず、研究は非常に困難である。しかし、地方三部会の決定は、三部会終了後、しばしば勅令(ordonnance)のかたちで発布されており、同史料から地方三部会の活動を推測することが可能である。そこで本稿では、1247年11月にルーアンで開催されたノルマンディ地方三部会の決定が記された1349年1月の命令と、1348年3月にポン‐トドメールで開催された同三部会の決定事項を記した3月勅令の内容の差異を比較検討することから、両地方三部会における王権と地域住民の交渉過程を考察した。
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