研究課題/領域番号 |
13J05974
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒瀬 麻友 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | TGF-β / non-coding RNA |
研究概要 |
今年度は、以下の項目について研究を実施した。 [1] TGF-β誘導性新規lincRNA高発現細胞株の探索およびその細胞株を用いたTGF-β誘導性新規lincRNAのノックダウンによる細胞応答の評価 既所持の細胞株を用いてTGF-β誘導性新規lincRNAの発現を調べた結果、複数種のマウス乳腺上皮細胞およびマウス乳がん細胞においてTGF-β誘導性新規lincRNAが高発現していることを確認した。それら細胞株においてsiRNAを導入することでTGF-β誘導性新規lincRNAをノックダウンすると、顕著な細胞数の減少、TGF-βによる抗アポトーシス作用に伴うcleavedPARPの発現低下およびTUNEL陽性細胞の減少が抑制されていることが明らかになった。アデノウイルスを用いて同細胞株にTGF-β誘導性新規lincRNAを過剰発現させると、cleavedPARPの発現量が低下した。またTGF-β受容体キナーゼ阻害剤SB431542処理によりTGF-βシグナルを抑制したときに、TUNEL陽性細胞の増加が抑制されることがわかった。一方で、上皮一間葉移行や細胞周期調節因子への影響は観察されなかった。 [2] TGF-β誘導性新規lincRNAの腫瘍形成能、浸潤・転移能の評価 TGF-β誘導性新規lincRNAをノックダウンした乳がん細胞をヌードマウスの皮下に移植し、がん細胞の生着および増殖を経時的に観察した。その結果、コントロールと比較するとTGF-β誘導性新規lincRNAをノックダウンしたがん細胞は、腫瘍形成能が低下していることが明らかとなった。 以上の結果より、乳がん細胞においてTGF-β誘導性lincRNAはTGF-βの抗アポトーシス作用を選択的に増強し、がんの悪性化を促進していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、乳がん細胞を用いてTGF-βの下流における新規lincRNAのがん促進的な作用を明らかにした。この成果は、新規性の高いlong non-coding RNAと細胞内シグナルによる生体内制御機構の一端を解明できたことに加え、non-coding RNAの基礎生物学的な新たな知見を得ることに繋がったと考えられる。また、申請時の研究計画をほぼ達成したことからも、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
アポトーシスを制御するTGF-β誘導性新規lincRNAに続く標的因子の同定を試みた。しかしながら、現時点において少なくとも転写レベルにおけるTGF-β誘導性新規lincRNAの標的アポトーシス制御因子は同定できなかった。long non-coding RNAは転写後調節機能を有する既報を踏まえ、今後はTGF-β誘導性新規lincRrgAの転写後調節機能やカスペースの活性に与える影響などを解析予定である。また、RNA-sequencingを用いて、TGF-β誘導性新規lincRNAのがん関連因子の発現への影響について網羅的解析や同定を予定している。以上の検討により、TGF-β誘導性lincRNAのがん促進作用の詳細な分子機序の解明を目的に進行する予定である。
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