研究課題
昨年度までの研究で私たちは、A型インフルエンザウイルス感染細胞において、二種類のmiRNAの発現が減少し、ムチン型糖転移酵素GALNT3が有意に発現上昇することを証明した。また、これらmiRNAは、GALNT3 mRNA 3' UTRをターゲットとしてGALNT3の発現を制御していることが明らかとなった。今年度の研究では、GALNT3の基質であるムチンの発現およびムチン型糖鎖修飾の変化について主に解析した。その結果、三次元培養法で培養したヒト由来上皮細胞にWSN株(H1N1)が感染すると、GALNT3とムチン(MUC1)の発現量が有意に上昇した。次に、PR8株(H1N1)が感染したヒト由来肺胞上皮細胞(A549細胞)を用いて、レクチンマイクロアレイ解析により膜タンパク質の糖鎖修飾を網羅的に分析した。その結果、O型糖鎖構造を認識して結合するレクチンについて、糖鎖修飾が有意に増加した。GALNT3安定発現細胞株においても、同様の結果が得られた。これらの結果から、ウイルス感染によって発現が上昇したGALNT3は、ムチンの発現を促進させるとともに、O型糖鎖修飾も顕著に増強することが示された。これまでの研究で、GALNT3は、A型インフルエンザウイルス感染細胞内において、ウイルスの転写・複製を促進している可能性が示唆された。本研究では、Galnt3ノックアウトマウスから、マウス胎児繊維芽細胞(MEF細胞)を樹立し、ウイルス感染実験を行うことにより、ウイルス複製への影響を詳細に解明することを試みた。その結果、PR8株感染MEF細胞では、野生型において、Galnt3の発現が上昇した。Galnt3ノックアウト型では、野生株と比較してウイルス遺伝子とウイルス力価の両者ともに有意に減少した。Suita株(H3N2)感染実験においても、同様の結果が得られた。これらの結果から、Galnt3をノックアウトした細胞にインフルエンザウイルスが感染すると、ウイルスの複製が有意に減少することが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、レクチンマイクロアレイ法を用いたムチン型糖タンパク質の糖鎖修飾解析では、A型インフルエンザウイルス感染細胞において、GALNT3の発現とともにムチン型糖鎖が有意に上昇する結果が得られた。GALNT3安定発現細胞株においても、同様の結果が得られたことから、GALNT3の糖鎖修飾する酵素活性が促進している可能性が示唆された。これに加えて、Galnt3ノックアウトマウスから樹立したMEF細胞のウイルス感染実験において、ウイルス遺伝子の複製が顕著に減少したことから、発現上昇したGALNT3は、ウイルスの複製を促進することが明らかとなった。以上の結果から、当初の計画以上に進展していると言える。
平成27年度においては、A型インフルエンザウイルス感染におけるGALNT3とムチンの機能を生体レベルにおいて明らかにする。GALNT3ノックアウトマウスにPR8株を感染し、病態の変化やウイルス伝播を通じたGALNT3とムチンの機能解析を行うことで、生体防御機構やウイルス増殖への影響を検討することを計画している。
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