本研究の目的は、グラフェンおよびグラフェン酸化物(GO)の有する特異的な蛍光クエンチ能を利用し、GOと脂質二重膜を組み合わせた新規分子計測手法を開発することである。H27年度は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマーを頭部に有する脂質を混ぜた支持平面脂質二重膜(SLB)/GO系の量子ドット(Qdot)標識を行い、一粒子蛍光追跡(SPT)法を用いたGO上人工脂質膜の流動性を評価した。原子間力顕微鏡(AFM)観察および蛍光退職後回復(FRAP)法を用いて、PEG化脂質濃度の膜構造および流動性に対する影響を調査した。SPTにおいて蛍光強度も同時に取得し、GO領域とSiO2領域の蛍光強度からGOの蛍光クエンチ効率およびGO-Qdot間距離を見積もった。 Qdotと脂質の結合数を制御するため、両末端にマレイミド基とヒドラジド基を有するリンカーおよびアミノエトキシエタノール(AEE)でQdotを修飾し、非特異的吸着を抑制するために5%のPEG化脂質およびチオールを頭部に有するDPPTEを混合したDOPC-SLB表面に標識した。2領域間を拡散するQdot標識脂質の軌跡について平均二乗変位(MSD)解析を行い、GO上とSiO2上で拡散係数を比較することでGO上に形成したSLBの流動性を評価した。その結果、GO上に形成したSLBはSiO2上の70%ほどの拡散係数であった。膜構造および流動性に対するPEG化脂質濃度の影響についてAFMおよびFRAP法による評価を行った結果、PEG化脂質の濃度の増加とともにデプレッション領域が増加し、PEG化脂質濃度の増加に伴い拡散係数が低下した。GO上に形成したPEG化脂質含むSLBにおいて、GO上にのみデプレッション領域が観察されたことからGO上にPEG化脂質が濃縮され、それにより拡散係数が低下したことが示唆された。
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