研究概要 |
カメラが高精細なイメージングを実現できる空間領域は、視野及び被写界深度により制限される。これらの制限の要因となる収差の問題の解決は、画像センシングの情報量拡大のために重要である。 本研究では、視野及び被写界深度が拡張された全方位・全焦点カメラの実現を目指す。夜行性の生物にみられる球面状の重複像眼をカメラ光学系に応用することで、被写体の三次元位置に非依存となる結像特性を実現できる[T. Nakamura, Opt. Express, 20, 27482 (2012)]。重複像眼により得られる均一にボケた画像にデコンボリューションと呼ばれる鮮明化処理を適用することで、全方位・全距離に合焦した像を生成する。提案手法により、三次元空間の隅々にピントの合ったギガピクセル画像の取得が実現できる。 今年度は、提案システムの具現化のための実装方式に関する検討を行った。生物の重複像眼を直接的に模倣するためには微細な屈折率分布レンズが必要となるが、現時点での同レンズの高精度な製造は困難であることが課題となっていた。そこで、今年度は、一般的なカメラ光学系に用いられる凸レンズと信号処理の組合せにより、重複像眼の結像と透過なイメージングを実現する技術を考案した。提案手法の効果は、シミュレーションや光学実験により実証された。現在の光学素子製造技術で実装可能な全方位・全焦点イメージング法を創出した点に意義がある。 また、当初は重複像眼による撮像系の構築のみを検討していたが、提案手法における光学結像とデコンボリューションの順序を入れ替えることで、重複像眼を用いた投影系を構成できることを発見した。光学実験による実証を行い、重複像眼を用いた広い視野・深い被写界深度の投影が実現可能であることを示した。任意の三次元面に対して、非計測で鮮明な投影を実現できる点に意義がある。
|