研究課題/領域番号 |
13J06044
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥田 貴史 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 炭化珪素(SiC) / p型SiCエピタキシャル層 / キャリア寿命 / 点欠陥 / 水素熱処理 / 水素パッシベーション / 熱的安定性 / バイポーラデバイス |
研究概要 |
SiC(炭化珪素)は優れた物性値を有しており、次世代パワーデバイス材料として注目されている。SiCを用いたバイポーラトランジスタ(BJT)は、高耐圧低損失のパワーデバイスとして期待されているが、電流増幅率がいまだ十分ではない。点欠陥による深い準位やベース・エミッタ接合での界面準位を介した再結合などが増幅率を制限している。これらを低減し高性能BJTを実現することが本研究の目的である。 当該年度は、点欠陥を介した再結合を低減するため、BJTのベース層であるp型Sicのキャリア寿命に注目した。これまでp型SiCの短いキャリア寿命(50-100ns程度)が問題視されていたが、物性値の報告自体が非常に少なく、そのメカニズムやキャリア寿命向上の方策などは全く不明であった。本研究では、p型SiCホモエピタキシャル成長層を準備し、その結晶に対してさまざまな処理を行い、キャリア寿命や正孔密度などの評価を系統的に行った。その結果、低下したキャリア寿命(90ns)を、水素熱処理によって300nsにまで向上できることを見出した。重水素を用いたSIMS分析などを組み合わせ、未知の点欠陥が水素パッシベーションされているというモデルの提案に至った。 SiC BJTの現状のデバイス構造においては十分なキャリア寿命が得られた。工学的な応用を考えると、この水素パッシベーションがどの程度安定かが重要であるが、水素脱離の温度依存性を調べた結果、少なくとも500℃までは安定であり、キャリア寿命向上効果を維持できることを実証した。 本研究で見い出した水素パッシベーションによるキャリア寿命向上プロセスは、SiCパワーデバイス作製プロセスに導入可能な温度であり、応用物理学の観点で意義深い。またp型SiCのキャリア寿命を制限している要因を解明するための大きな一歩であり、今後、BJTだけでなくその他のSiCバイポーラデバイスへ波及する成果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は予定通り、p型SiCのキャリア寿命に注目した。その結果、水素熱処理によってキャリア寿命を目標値以上に向上させることに成功した。系統的な実験を行い、キャリア寿命向上のメカニズムの提案に至った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、新たなキャリア寿命向上手法を見出した。今後、バイポーラデバイスにおいて重要な低濃度ドーピングのp型SiCにおいても同手法を適用させ、キャリア寿命向上を狙う。また、水素パッシベーションされている未知の点欠陥の起源を明らかにすることも重要である。 次に、最近の予備実験の結果から、p型SiCの表面再結合が大きいことが分かってきた。これによって実効的なキャリア寿命が低下し、バイポーラトランジスタの増幅率を低下させてしまう。今後、表面再結合速度の定量とともに最適な表面パッシベーションの提案を行う予定である。
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