本年度は、4H-SiCの表面再結合速度の低減を目指し、キャリア寿命を測定することで表面再結合の影響を調べた。露出したSiCの表面再結合速度は1000-5000 cm/sと非常に高く、キャリア寿命を大きく制限している。本研究ではn型基板上に成長させた4H-SiCエピタキシャル層を用い、表面パッシベーション膜としてSiO2を堆積させた。その後、オキシ塩化リン(POCl3)雰囲気下で1000℃ 10分間の熱処理、続けて窒素雰囲気下で1000℃ 30分間の熱処理を行った。その結果、測定されたキャリア寿命は3 usに向上し、エピ層のバルク寿命とほぼ一致する値となった。すなわち、表面再結合速度が十分に低減されたことを示している。数値解析により見積もった表面再結合速度はおよそ100-500 cm/s程度であり、大幅な表面再結合速度の低減に成功した。さらに、様々な温度(800-1100℃)でPOCl3熱処理を行い、キャリア寿命の変化とともにSiO2/SiCの界面準位について調べた。その結果、キャリア寿命の向上と界面準位の低減に明瞭な相関を確認し、界面準位低減によって表面再結合を抑制できていることが分かった。 次に、デバイス作製プロセスにおける点欠陥の生成について調べた。BJTの作製には反応性イオンエッチング(RIE)を用いるが、エッチングされた面に多量の点欠陥が発生することを本年度明らかにした。加速されたイオンがボンバードメントを起こし、点欠陥が生成したと考えている。同時に、これらを低減する手法として、熱酸化(1150℃)にくわえて高温Ar熱処理(1550℃)を行い、生成した点欠陥を大幅に減少できることを見出した。この知見を活かし、点欠陥低減プロセスを実際にBJTの作製へ適用し、リーク電流の少ないBJTの作製に成功した。
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