研究概要 |
豪州ヒノキ複合種はオーストラリア大陸全域に分布を拡大した系統群であり, 砂漠・温帯・熱帯サバンナという多様な気候下で生育している. 本研究では, この豪州ヒノキを対象にした生態ゲノミクスを展開することで, 本種群における環境適応の遺伝的基盤を解明するとともに, 遺伝的適応がその後の集団サイズや生態ニッチの拡大にどのように寄与したのかを解明することを目的としている. 平成25年度はまず, オーストラリア大陸全域(28地点)から収集した種子に基づく共通圃場実験を行い, 豪州ヒノキ複合種の稚樹に見られる形質変異を評価した. 形態・成長測定・化学・同位体分析を行うことで8種類の形質データを得た. 形質値と自生地の気候要因との相関を, 系統的背景を考慮して推定したところ, 葉長・気孔密度・葉の窒素濃度・樹形などの形質が季節降水量と有意な相関を示すことが明らかになった. 同時に各形質について祖先復元を行った結果, 半乾燥地環境に分布していた共通祖先が乾燥地や熱帯モンスーン帯などの気候区へと進出する中で, 利用可能な水資源量が選択圧となって多様な形態・生理形質を進化させてきたことが示された. 続いて, 大陸全域から採取した植物試料からDNAを抽出し, RAD-seq解析を行った. RAD-seqは制限酵素で切断されたDNA断片を次世代シークエンサーで網羅的に解読することで, 非モデル生物において多数のゲノム領域の塩基配列を得られる遺伝解析手法である. 今年度の解析では, 約120個体の豪州ヒノキ個体について4000を超える数の一塩基多型(SNPs)を検出することができた. これらのSNPsの中には自生地の気候要因と有意な相関をもつものが約100個含まれていた他, 多くのSNPs同士の間には比較的強い連鎖不平衡係数が推定されたことから, オーストラリアの多様な気候環境がゲノムの複数領域に選択圧として働いた可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は共通圃場実験によって, 豪州ヒノキに自然選択圧として働いた環境要因の特定とそれに応答して起きた形質進化を示すことができた. また, RAD-seq解析により多数のSNPsを得ることができ, その中に各種気候要因と相関をもつSNPsが多数含まれることを示すことができたことから, 当初の研究実施計画に即して順調に研究が進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度のRAD-seq解析で得られた, 適応に何らかの形で関連している可能性のあるSNPsが, 豪州ヒノキのゲノム上のどのような場所に位置するのかを明らかにするために, 今後は大配偶子体法に基づいて連鎖地図の作成を進め, SNPsのマッピングを行う. 同時に, 豪州ヒノキのトランスクリプトームライブラリからは非同義置換率が特に高い遺伝子がリスト化されており, それら候補遺伝子について次世代シークエンサーを用いてリシークエンス実験を行い, 得られた塩基配列データについて中立進化の検定を行う予定である.
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