研究課題/領域番号 |
13J06086
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 信人 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 原核生物 / 進化 / 選択的一掃 / 相補的複製 / 遺伝の起源 / 自発的対称性の乱れ / minority-controled state / protocell |
研究実績の概要 |
原核生物の集団に新規の適応的な遺伝子がもたらされると、自然選択によってその遺伝子を持ったゲノムが集団内に拡がり、それに付随して集団内の遺伝的多様性が一掃されてしまうとこれまでは信じられてきた(この現象はgenome sweepと呼ばれる)。ところが最近の研究によると、自然界の原核生物においては、適応的な遺伝子は組み替えによって集団内に拡がるので、遺伝的多様性は保持されるという事が示唆された(この現象はgene sweepと呼ばれる)。しかしこれまでの理論によると、gene sweepが起きるためには遺伝子組み換え率がデータからの推定値より数桁大きくなければならず、現実を説明する事ができない。我々はこの問題を解決する新たな数理モデルを構築した。我々の研究の結果、原核生物においてもウイルスなどのありふれた要因によって生じる負の頻度依存的選択によってgene sweepが引き起こされる事が明らかになった。 相補的複製は全生命における遺伝の分子的基盤を与えており、進化に必要な条件の1つを満たさせている。一方、進化そのものは相補的複製を必ずしも必要とはしない。では相補的複製にはどのような進化的意義があるのだろうか。この疑問に答えるため、我々は理論モデルを構築して、相補的複製が原始的細胞の進化に与える影響を調べた。これまでに得られた結果によると、元々同一の性質を持っていた互いに相補的な分子鎖の間で自発的に対称性が破れ、一方の鎖は酵素活性と鋳型活性の両方を維持し多数派を形成するのに対して、もう一方の鎖は酵素活性を失い鋳型活性のみを有した少数派を形成するように進化する事が分かった。後者の鎖は、量が少ないという点と触媒活性を持たないという点において、あたかもゲノムの様な性質を持つ。以上の結果は、複製の相補性と自発的対称性の乱れが、生命における遺伝の進化に対して重要な役割を果たすという事を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
原核生物の集団の持つ遺伝的多様性はgene sweepによって保持されるという実験結果はこれまで謎であったが、これを負の頻度依存選択によって説明する数理モデルを構築することができた。この研究をまとめた論文は査読者から高い評価を受け、BMC社のflagship journalであるBMC Biologyに受理させる事ができた。また、原始的細胞において如何にして現在の様な遺伝機構が進化するのかは大きな謎であった。この謎を解くきっかけとなりうる、相補的な分子間で機能的かつ速度論的対称性の乱れが進化するという重要な結果を得る事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
相補的複製のもつ進化的意義に関する研究を来年度早期に完成させ、国際誌に論文を投稿する。また鋳型と酵素の分業の進化に関する研究を来年度中に完成させ、国際誌に論文を投稿する。
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