研究課題
本年度の目的は、プロト細胞(原始的細胞)モデルおいて複製分子の相補鎖間で起きる対称性の自発的破れについて、その仕組み明らかにし、またそれが持つ細胞への影響を明らかにする事であった。我々が研究したモデルはプロト細胞の集団から構成され、各細胞は自己複製する分子の集団を内部に含む。これらの分子は複製の鋳型かつ触媒として働く事ができる。複製には有限の時間がかかるので、分子は他の分子の複製を触媒すればするほど、自分が鋳型として働く機会を失い、自己複製を抑制してしまう。したがって分子は自分の持つ触媒活性を最小化するよう進化する傾向がある。しかし逆に、細胞は分子の触媒活性を最大化するよう進化する傾向にある。なぜなら、細胞は内部分子の複製が速いほど分裂が速いからである。これら2つの対立する進化傾向の力関係は、細胞内の分子数Vや分子の突然変異率に依存する。例えばVが十分小さいと細胞レベルの進化が勝ち、触媒活性は最大化される。逆にVが十分大きいと分子レベルの進化が勝ち、触媒活性は最小化される。Vが中間の時、2つの進化傾向は拮抗状態にある。この時、分子レベルの進化が細胞レベルの進化よりもやや強い場合、分子は触媒活性を失う方向に進化する。しかし相補鎖の片方が触媒活性を失う事で、分子の突然変異率が実効的に減少する。それにより分子レベルの進化が弱まり、分子と細胞の進化が釣り合いを取れる様になる事で、系は進化的に安定な状態に至る。これが対称性の破れの仕組みであった。さらに、この仕組みによって生じる相補鎖の触媒と鋳型へ分化が、さらに相補鎖間での数の非対称性も進化させる。この数の非対称性は、細胞内の分子の有効集団サイズを減少させる。これが細胞の進化傾向を強め、かつ分子の進化傾向を弱めるので、プロト細胞の平均触媒活性が上昇する。これが相補鎖間での対称性の破れが細胞に与える影響であった。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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Proceedings of Royal Society B, Biological Sciences
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