研究の背景:研究代表者の研究は、母乳育児という極めて私的空間で営まれている行為が、公的空間へ包摂された要因を、敗戦後のグローバルな社会変動としての、「WHO」「ユニセフ」の推奨する周産期医療観とローカルな日本の周産期医療界の権力地図、であるという仮説を立て、そのメカニズムについて社会学的考察を用いて明らかにすることである。1945年以降の日本社会において、「戦後日本」を形づくる上で需要な役割を果たした、医療制度について、特に周産期医療分野を中心に分析をおこなった。その中でも、医療に包摂される側面と、生活世界の文化的に規定される側面を合わせもっている「母乳育児」を事例として調査研究を行った。上記に述べたように、母乳育児支援してきた医療従事者の論理、政策立案者の意図について分析・考察を行った。結論:母乳育児は個人的な行為として考えられている側面が多いが、国際政治の舞台でも必要なツールとして作用している。そのことは、国連における「健康」「衛生」と深く関わっている。一方国内では、人々の要請を体現するというよりも、医療従事者の政治に翻弄される部分が少なくない。それは、現場での職域争いが厚生省の看護職問題へと波及し、また行政の問題が現場の職域争いへと繋がることがある。その循環が人々の母乳育児ではなく、社会構造・職域争いの母乳育児になってしまっている側面を明らかにした。
|