本研究は、エラスチンを主要構成成分とするブルッフ膜と加齢黄斑変性の病態との関与を明らかにすることを目的としている。A2Eは、ビタミンAの代謝産物であるall trans retinalと視細胞外節に豊富に存在するphosphatidilethanolamineが結合して形成され、加齢に伴って網膜色素上皮細胞に沈着する老化物質であるリポフスチンの主要成分である。昨年度は、in vitroにおける検討を行い、網膜色素上皮細胞のオートファジー機能を低下させた状態でA2Eを作用させることにより、ブルッフ膜の変性、エラスチンの異常増殖が起こることを示した。すなわち、A2Eの存在下では網膜色素上皮細胞の機能低下が起こり、基底膜であるブルッフ膜の統一性が保てなくなるが、オートファジーが亢進し代償的に働いている。しかし、加齢などによりオートファジー機能の低下が起こると、この代償機構が不十分になり、網膜色素上皮細胞の機能低下とブルッフ膜の変性が惹起されると考えられた。今年度はこの検討をさらにin vivoに発展させ、マウスを用いて検討した。オートファジーが低下しているAtg5のヘテロ欠損マウスの網膜下にA2Eを投与すると、野生型のマウスにA2Eを投与した場合と比較して有意に強い網膜色素上皮細胞の障害を生じた。同様に、Atg5のヘテロ欠損マウスの網膜下にA2Eを投与すると、コントロールとしてretinolを網膜下に投与したものと比較しても強い網膜色素上皮細胞の障害を生じることを確認した。加齢によるブルッフ膜の変性は加齢黄斑変性の病態に大きく関与していると考えられるが、その詳細なメカニズムについては未だ不明な点が多く、病態解明につながる知見と考えられる。
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