研究課題/領域番号 |
13J06115
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
更級 葉菜 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 免疫性核酸/蛋白複合体 / SF3B2 / 大腸炎 / SP-D |
研究実績の概要 |
昨年度の研究の中で、核酸に直接結合して免疫性を付与する蛋白質SF3B2が同定された。SF3B2をノックダウンすることにより死細胞の免疫性は半分程度に減弱したが、完全には免疫性が消失しなかったことから、SF3B2に依存しない機構でも核酸に免疫性が付与されることが示唆された。そこでSF3B2に結合していないフリーの核酸の取り込みを促進する分子としてサーファクタントプロテインD(SP-D)に着目し、SP-Dによる核酸取り込みの促進が病態に与える影響について上記の解析と同時に検討を進めた。 マウスに3.5% DSSを7日間投与し、体重変化や組織学的変化を検討したところ、SP-D KOマウスではWTマウスと比較して顕著な体重減少が観察され、実験開始から8日目の大腸組織ではより重度の大腸上皮細胞の脱落や炎症細胞の浸潤が見られた。また、大腸炎の指標のひとつである大腸の長さに関しても、SP-D KOマウスで著明な大腸の短縮が観察された。SP-Dはこれまで肺での機能解析が主に行われており、消化管での機能に関しては全く知られていなかったことから、この結果はSP-Dが腸炎を抑制することを示す重要な知見である。 SP-Dは当初肺に限局して発現すると考えられていたが、最近になって腸管を含む全身の様々な組織で発現することが報告された。しかし私が行った検討では小腸、盲腸、大腸いずれの組織でもSP-DのmRNAを検出することができなかった。分泌物を介して大腸に影響を与えうる組織の中で、SP-DのmRNAが検出されたのは胆嚢であり、この結果に一致して、胆汁中にSP-Dが存在することもELISAにより確認された。さらに興味深いことに、胆嚢のSP-D mRNAや胆汁中のSP-DはDSS腸炎の進行に伴って発現が増加した。これらの結果より、胆汁とともに腸管へ分泌されたSP-Dが腸炎を抑制している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までの研究において、核酸の免疫性を増強させる蛋白質としてSF3B2およびSP-Dを同定したため、今年度はそれらの遺伝子欠損マウスを準備して解析を行った。SF3B2はホモの欠損マウスが致死のため、ヘテロマウスを用いてマウス胎仔繊維芽細胞の用意を行い、実験に用いる準備が完了したところである。一方で、SP-D欠損マウスは正常に産まれて成長するため、in vivoを含めた解析を行った。その結果、SP-Dが大腸炎の抑制に関与することをマウス大腸炎モデルを用いて明らかにすることができた。胆汁中のSP-Dの濃度が腸炎の進行に伴って増加するというデータは、SP-Dが肺以外の組織で産生され、生理的な機能を果たしていることを示す重要な発見である。また、細胞質内核酸センサーSTINGのアクチベーターであるc-di-GMPやcGAMPの刺激性をSP-Dが増強するというin vitroのデータも得られており、これはSP-Dが腸炎を抑制する分子機構の解明につながる興味深い知見である。 昨年度までに得られていたin vitroの結果をもとに、今年度は遺伝子改変マウスを用いて核酸に免疫性を付与する蛋白質の解析を行うことができた。SP-Dに関しては、マウスモデルを用いた実験でin vitroで得られた結果と一致する結果が得られ、腸管におけるSP-Dの生理的な意義を明らかにすることができた。また、SP-Dの産生部位に関しても、これまでに報告されていない知見を得た。さらにSP-Dによる腸炎抑制のメカニズムを明らかにするようなデータも少しずつ得られてきており、当初の予定以上の研究成果が得られたことから、(1)当初の計画以上に進展している。の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度明らかにできたSP-Dの腸炎抑制作用は、炎症性腸疾患に対する治療法開発につながる可能性がある興味深い知見である。SP-Dは生体内で恒常的に産生、分泌される蛋白質であるため、治療薬として直接腸管内に投与した場合の副作用が非常に少ないことが予想されることからも、SP-Dの腸炎抑制機構の解明は重要な課題であると考える。今年度得られた結果をもとに、来年度はSP-Dによる腸炎抑制の分子機構についてさらに解析を進める。また、SP-Dは免疫細胞への核酸の取り込みを促進させるだけでなく、細菌の増殖やクリアランスも制御することが分かっているため、腸管に分泌されたSP-Dがマウスの腸内細菌叢のバランスに影響を及ぼしている可能性も考えられる。そこで今後はSP-D KOマウスとWTマウスの腸内細菌叢の比較を行い、SP-Dが腸内細菌叢に与える影響という観点からも腸炎抑制機構を明らかにする予定である。 SF3B2についても遺伝子欠損マウスを入手したが、ホモのSF3B2欠損マウスは致死である。そのためヘテロマウスを用いて、SF3B2欠損のマウス胎児繊維芽細胞を作製した。今後、この細胞を使用してSF3B2の解析を進めることは可能であるが、上記のSP-Dに関する発見の重要性を考慮し、残された時間の中でどのようにエフォートを配分するか慎重に検討した上で、SF3B2の解析を推進する予定である。 得られた結果は今年度中に論文として発表する予定である。
|