これまでの解析で、SP-Dは細菌由来のSTINGリガンドの取り込みを促進すること、またSP-D欠損マウスではDSS誘導性大腸炎が悪化することが判明したため、腸管におけるSTING-IRF3経路の活性化にSP-Dが関与しているという仮説を立てた。しかしながら、IRF3の下流で発現するIFNβ、TSLP、IL-33に関しては、DSSを投与したWTマウスとSP-D欠損マウスの大腸における発現レベルに著明な差が見られなかったことから、少なくともSP-D欠損マウスにおける大腸炎の悪化がSTING-IRF3経路の活性化の異常に依存するものではないことが示唆された。そこで、SP-Dが持つもう一つの重要な機能である「細菌の増殖制御」に着目した。 その結果、SP-D欠損マウスにおけるLactocbacillus murinusの増加とClostridium属細菌の減少が顕著であることが判明した。さらに、SP-D欠損マウスで減少していたClostridium属細菌は全て、Tregの誘導を引き起こすcluster4あるいはcluster14aに分類されることも明らかになった。またこの結果に一致して、SP-D欠損マウスでは、大腸粘膜固有層におけるTregの割合も減少していた。 さらに、SP-DはL. murinusの膜構造を破壊し、その増殖を著明に抑制することが明らかになった。また、L. murinusとClostridium属細菌を共培養した検討では、L. murinusがClostridium属細菌の増殖を抑制することも判明した。これらの結果より、SP-D欠損マウスではL. murinusの増殖抑制が解除され、増殖したL. murinusがTregを誘導するClostridium属細菌の増殖を抑制することでDSS誘導性大腸炎への感受性を増大させている可能性が示唆された。
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