研究課題
昨年度、人工リン脂質二重膜デバイスを新規に構築し、膜透過性ペプチドの探索に応用しようと研究を行っていたものの、人工リン脂質二重膜と実際の細胞膜は、膜タンパク質や糖鎖の有無だけでなく、マクロピノサイトースのような細胞の動的な現象でも大きな違いがあった。そこで、本年度、申請者は、ピコタイタープレート内での細胞膜透過性ペプチドの探索法を新規に考案した。その方法は、30万個(直径30μm、深さ30μm)の穴が空いたガラス製のピコタイタープレート内に、転写・翻訳反応に必要な配列を含む鋳型DNAが結合した直径20μmのシリカビーズと細胞を挿入し、そのウェル内で転写・翻訳反応を行うことで、膜透過性ペプチドを探索するという方法である。エマルジョンポリメラーゼ連鎖反応法によって、各ビーズ上にDNAライブラリーをクローナルに増幅させることができるため、数万種類程度のペプチドの細胞膜透過性を一度に解析することができる。また、そのウェル内にあるビーズ上のDNA配列情報を、パイロシークエンス法などのDNAシークエンシングによって読み取ることができるため、各ウェル内で翻訳された細胞膜透過性ペプチドの配列を簡単に読み取ることができる。この新しい方法を確立するため、本年度は、下記の実験を実施した。1. シリカビーズ上の鋳型DNAを用いた翻訳合成の確立、およびピコタイタープレート内での翻訳合成の確認2. 遠心操作を用いた各ウェル内への細胞挿入法の確立3. 特定のアミノ酸配列に結合し強い蛍光を発する蛍光試薬を用いた翻訳合成ペプチドの蛍光標識法の確立
3: やや遅れている
昨年度までは、膜透過性ペプチドの探索を行うために、人工脂質二重膜デバイスの新規構築を行っていたものの、実際の細胞膜と人工脂質二重膜は、細胞膜に存在する糖鎖や膜タンパク質などが存在する点や動的な挙動の面で大きくかけ離れていることから、本年度からは生きた細胞を用いたシステムに変更した。そのため、研究の進展でやや遅れは出ているものの、本システムが完成すれば、ペプチド創薬研究に大きな進展となることが期待できる。現段階で、シリカビーズに結合した鋳型DNAを用いた翻訳合成やペプチドへの蛍光ラベル化など着実に研究は進展しており、今後、共焦点顕微鏡を用いて細胞膜を透過したペプチドを検出する手法を確立する。最終目標である細胞膜透過性ペプチドの探索システムの確立まであと少しのところまで来ていると考えている。
共焦点顕微鏡を用いて、ピコタイタープレート内で翻訳された細胞膜透過性ペプチドの細胞取り込みを検出を試みる。この実験により、考案したシステムが機能することを実証する。さらに、標的タンパク質に強固に結合するペプチドライブラリーの中から、本システムを用いて、細胞膜透過性を有するペプチドの探索に使用できることを示す。また、この研究の成果として、正常細胞には取り込まれず、がん細胞に選択的に取り込まれるペプチド配列が明らかになる可能性があり、ナノ治療への応用へ展開していきたいと考えている。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) 備考 (2件)
Biomaterials
巻: 55 ページ: 54-63
10.1016/j.biomaterials.2015.03.037
Science and Technology for Advanced Materials
巻: 15 ページ: 035002
doi: 10.1088/1468-6996/15/3/035002
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition
巻: 54 ページ: 166-173
doi: 10.3164/jcbn.13-85
Advanced Healthcare Materials
巻: 3 ページ: 1149-1161
doi: 10.1002/adhm.201300576
Drug Delivery System
巻: 29 ページ: 88-89
ファルマシア
巻: 50 ページ: 751-755
高分子
巻: 63 ページ: 712-714
http://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/users/bioorg/index.html
http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~nagasaki_lab/index.htm