本研究ではピロリ菌CagAタンパク質とその細胞内標的分子との相互作用を構造生物学的ならびに速度論的側面から解析することにより、CagAによる胃がん発症の分子基盤を解明することを目的としている。 精製したチロシンリン酸化CagAとSHP2を用いて表面プラズモン共鳴法によりCagAとSHP2の解離定数を測定した結果、CagAのEPIYA領域数が1個から2個へ増加する際にCagA-SHP2複合体の結合親和性が最も大きく増強されることが明らかとなった。また、GSTタグを付加したSHP2とチロシンリン酸化CagAを用いたGSTプルダウンアッセイにおいても単一のEPIYA領域を有するCagAと比較してEPIYA領域を2個以上持つCagAはSH2ドメインと効率よく複合体を形成した。次に、CagAのEPIYA領域数とCagAの病原性および発がん性との関係をさらに解析するため、様々な数のEPIYA領域を保持するCagA変異体を発現させた胃上皮由来AGS細胞を用いて、コラーゲンゲル浸潤アッセイを行った。その結果、EPIYA領域を1つ持つCagAを発現させた細胞においてはコラーゲンゲルへの侵入がほとんど見られなかったが、EPIYA領域を2個以上持つCagA発現細胞においてはコラーゲンゲルへの侵入が大きく増強する傾向が認められた。 昨年度より、結晶構造解析を用いてCagA-SHP2複合体の三次元立体構造解析を目指し、精製したチロシンリン酸化CagAとSHP2のSH2ドメインとの共結晶化を行っている。当初、全長CagA(1186残基)とSHP2のCagA結合部位であるSH2ドメインを用いて共結晶化を行っていたが、良好な結晶が得られなかった。そこで結晶化の妨げとなりそうな部位を除いたCagA(261-1076 残基)を作製してSH2ドメインとの共結晶化を行っている。
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