これまでの中部アフリカ熱帯林における申請者の研究から、中程度の酸性土壌に成立する熱帯林では、土壌中の下方浸透水を通して硝酸態窒素が大量に下層土壌へ移動している一方、強酸性土壌に成立する熱帯林では既存の知見と同様に表層土壌のルートマットから下層へ窒素が漏れる事無く回収されていることが明らかとなった。 リンの大部分が難溶性として存在する強風化土壌に成立する熱帯林では、一部の有機態リンが植物のリン源として重要であると考えられており、植物は根から酸性フォスファターゼ(ACP)を滲出して有機態リンを利用している。ACPは窒素を大量に必要とする酵素であるため、窒素動態とリン動態が連動しているとすれば、可給態窒素量が多い土壌層位の樹木根におけるACP活性が高い事が予想される。このことから本研究では「中程度酸性土壌の地点ADでは強酸性土壌の地点MVに比べてマメ科植物の優占割合が高く、表層土壌の硝酸態窒素量が高い為にリン獲得に多くの窒素を投資してACP活性を高く維持しており、それが両森林で異なる窒素動態の原因である」という仮説を立て、現場でのみ測定可能な酵素活性を引き続き測定した。 その結果、根1g当たりのACP活性はADのO層が、ADのA層に対して、更にMVの両層に対して有意に高い値を示した。一方、活性値に細根量を乗じて面積当たりに換算すると、O層、A層ともに森林間で違いはなかった。以上よりO層に関しては、MVと比べて窒素資源が豊富にあるADにおいて根重あたりのACP活性が高くなるというように、窒素動態とリン動態が連動している事が推測された。反対に窒素資源の乏しいMVでは根重あたりのACP活性は低いものの、根量が多い事により面積当たりの活性では根量の少ないADとの差が見られなかった。このように、窒素資源量が異なるO層においてリン獲得における戦略が両森林で異なっていた。
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