研究課題
平成25年度は、フェムト秒パルスラジオリシスシステムの測定波長拡大に取り組み、アルコール中の溶媒和前電子から溶媒和電子へと至る過程の観測に成功した。さらに電子捕捉剤をアルコールに添加した系を用いることで溶媒和前電子およびドライ電子の挙動に関する新たな知見を得た。(1)フェムト秒パルスラジオリシスシステムによるアルコール中の電子の溶媒和過程の観測溶媒和前電子から溶媒和電子へと至る緩和過程を明らかにするため、システムの測定波長範囲を400㎚から1900㎚まで拡張し、アルコールの過渡吸収スペクトルを測定した。エタノール中では、溶媒和電子および溶媒和前電子の吸収バンドをそれぞれ観測し、溶媒和電子の吸収バンドにおいて、スペクトルが時間の経過と伴に短波長側へシフトすることを見出した。今後、分子の配向および電子軌道遷移、熱緩和の寄与について検討を行い、溶媒和過程の全貌を明らかにしていく。(2)溶媒和前電子およびドライ電子の反応性エタノール中に電子捕捉剤を添加した系のパルスラジオリシスを行い、溶媒和前電子の収量の濃度依存性を測定した。電子捕捉剤が溶媒和前電子と反応することにより、その減衰が速くなっただけでなく、溶媒和前電子の初期収量が著しく低下した。これは捕捉剤が、溶媒和前電子に先行して存在するドライ電子と反応したためであり、ドライ電子が溶媒和電子や溶媒和前電子に比べて非常に大きな反応性を有していることを実験的に明らかにした。ドライ電子が、その寿命の短さに関わらず、反応過程において大きな役割を担っていることを見出したことは、量子ビーム誘起反応の理解に資するものである。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度は、溶媒和電子の前駆体である溶媒和前電子の過渡吸収スペクトルの測定を、当初の計画通り遂行し、溶媒和過程の新たな知見を得た。さらにオクタノールを用いることで、これまで観測に至っていなかったドライ電子を示唆する挙動の観測にも成功しており、今後さらなる成果が見込まれる。
ドライ電子の挙動の観測に向けて、パルスラジオリシスシステムの測定波長拡大および時間分解能向上を推進していく。これまでの溶媒和前電子の観測結果から、アルコール中のドライ電子の寿命が数ピコ秒以内であることが予測されている。さらにオクタノールを用いた実験において、溶媒和前電子の吸収バンドより長波長側である1900㎚にて非常に短時間に減衰する活性種を観測した。今後、新たに観測した活性種の帰属にむけ、測定波長領域を2200㎚まで拡大し、さらに時間分解能の向上のために光路長の短いサンプルセルの導入および等価速度分光法などの新たな測定手法の確立に取り組んでいく。
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Applied Physics Letters
巻: 102 ページ: 221118-22121
10.1063/1.4809756