研究課題
採用第2年度は、研究計画に則り、2000nm付近まで測定波長を拡大したフェムト秒パルスラジオリシスシステムを用いて、アルコール中のドライ電子の挙動の観測を試みた。さらに前年度得られた溶媒和前電子及び溶媒和電子の過渡吸収スペクトルを解析し、分子配向と電子軌道遷移について検討を行った。以下にその概要を述べる。(1)オクタノール中のドライ電子の観測2000nm付近まで測定波長を拡大したフェムト秒パルスラジオリシスシステムを用いて、オクタノール中の電子の過渡吸収スペクトルを測定した。オクタノール中でも、エタノール中と同様に、700nm、1200nm付近に吸収ピークを持つ溶媒和電子、溶媒和前電子それぞれの吸収帯が観測された。一方、1600nmよりも長い波長領域において溶媒和前電子とは異なる、新たな活性種による吸収帯の観測に成功した。1400nmで観測した溶媒和前電子の減衰の時定数が52psであったのに対し、1900nmで観測した活性種の減衰の時定数は27psと非常に速く、溶媒和前電子に先行して存在するドライ電子の寄与が示唆された。(2)エタノール中で観測された、溶媒和前電子から溶媒和電子へと至る吸収スペクトルについて、分子配向に伴う連続的な吸収波長シフトを考慮にいれた解析を行った。過渡スペクトルを溶媒和前電子および溶媒和電子それぞれの吸収スペクトルに分離することで、溶媒和前電子の寿命(13ps)と、連続的なスペクトルシフトに要する時間(21ps)を独立に求めた。分子の電場応答時間に相当する誘電緩和時間は16psと報告されており、双方の時間は誘電緩和時間と近い値を取っている。当初、連続的なスペクトルシフトと誘電緩和過程の相関を予想していたが、この結果からは、溶媒和前電子から溶媒和電子へと至る軌道遷移過程についても誘電緩和との関係が示された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、フェムト秒パルスラジオリシスシステムを活用して、量子ビーム化学初期過程の中心的な問題であるイオン化直後の電子の熱化・溶媒和過程を実験的に解明することを目的としている。これまでに、フェムト秒パルスラジオリシスシステムの測定波長範囲を拡張を行うことで、アルコール中の溶媒和過程における電子の過渡吸収スペクトルの測定に成功し、分子配向過程や電子軌道遷移過程との関係について新たな知見をこれまで得てきた。一方、オクタノール中において、溶媒和前電子に先行して存在する活性種の観測に成功しており、今後もドライ電子との関係について検討することで、熱化過程への重要な知見を得られることが期待できる。
平成26年度はドライ電子の直接観測に向けて、引き続きオクタノール中で観測された活性種の帰属を行う。さらに電子捕捉剤添加実験によって、電子の熱化および溶媒和過程における電子の反応性を明らかにし、それぞれの過程における電子のダイナミクスを詳細に検討することで、熱化・溶媒和過程双方を内包した溶媒和電子生成モデルを確立する。
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