研究実績の概要 |
本研究課題では,気候変動に伴う将来の遺伝的多様性を推定する枠組みを確立することを目標とする.平成26年度は,現在気候における水温・水理勾配に沿った適応進化過程を考慮した水生昆虫4種の遺伝的多様性推定モデルを開発し,国際学術雑誌にて発表した.この論文執筆・発表と並行して,気候変動下の水文データ取得,生物多様性推定モデルの改良等を行った.これらの概要を以下にまとめる. 8種類の全球気候モデル(e.g., MIROC5)から将来の降水量・気温データを取得した.降水量・気温が対象地域において対数正規分布・正規分布に従うと仮定し,将来気候値と現在気候値の比・差を3か所のアメダス観測所の観測値に補正してバイアスを補正した.これら将来気候値を水文モデルの入力値として,将来の水温,流速,水深を予測した.現在は,予測された水文量に基づいて将来の水生昆虫の適応的進化過程を考慮した遺伝構造変化を解析中である. 分布型水文モデルを用いて種多様性を推定するモデル(糠澤ら,2013)の改良を行った.従来の頻度分析に基づく生息適性指数(HSI)に加えて種分布推定ソフトのMaxent(Philip et al., 2006)を採用し,両者の精度比較を行った.また,両手法により推定された6分類群のHSIから種多様性指標(種数,多様度指数など)を推定した.この推定結果と,魚類,両生類,昆虫類の在データから成る種数と相関をとった結果,種多様性指標の中でMaxentによるHSIを用いた多様度指数(ME多様度)が最も統計的有意な正の相関を示した.最終的に,最も信頼性の高いME多様度と観測された水生昆虫の遺伝的多様性を比較し,種-遺伝的多様性相関仮説(Vellend, 2005)を検証した.しかしながら,ME多様度は4種中1種の遺伝的多様性とのみ有意な正の相関を示した.
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