研究課題
本課題はこれまで確立したブタの体細胞クローニングシステムとキメラブタ作出法を土台に、(1)多能性幹細胞のキメラ形成能を検証するシステムの確立、(2)ブタ胚をホストとする異種キメラ作出の可能性を検証、(3)胚盤胞補完により多能性幹細胞による欠損臓器の修復の可能性の検証が目的である。本年度は(1)、(2)について取り組んだ。多能性幹細胞をブタ単為発生胚由来の割球と凝集させることで、簡便に多能性幹細胞のキメラ形成能をin vitro及びin vivoで検証出来るシステムを確立した(Nakano et al 2013, Plos one)。本法は共同研究者が樹立したブタiPS細胞の多分化能の検証にも利用することが可能であった(Arai et al, 2013, Genesis)。ブタ単為発生胚を用いた凝集法を異種間キメラに応用し、ブタ胚と異種胚細胞の親和性を検証した。ドナー細胞にはブタと同じ偶蹄類であるウシと霊長類であるマーモセットを用いた。まず、割球同士の凝集胚を作製し、胚盤胞への発生率、異種細胞の挙動を検証した。異種間凝集胚は、ブタ同種凝集胚と同様の効率で胚盤胞に発生し得ることが明らかとなった。得られた胚盤胞におけるドナー細胞の分布、すなわちキメリズムは、ICMだけでなく栄養膜細胞にも高頻度に及んでいた。次に、ICMをドナー細胞に用いて異種間凝集胚におけるキメリズムの発生を検証したところ、ウシICM、マーモセットICMをドナー細胞とする凝集胚は、高効率にキメラ胚盤胞に発達することが明らかとなった。ウシICMを用いて作製したウシブタキメラ胚盤胞を仮腹雌に外科的に移植したところ、体節期胎仔(day20)においてキメラ状態が維持されることが明らかとなった。本成果はブタ体内における異種臓器再生(最終的にはヒト)という究極的な目標に向けて、重要な知見であると考える。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目的は(1)多能性幹細胞のキメラ形成能を検証するシステムの確立、(2)ブタ胚をホストとする異種キメラ作出の可能性を検証することである。PLOS ONE誌に発表したキメラブタの作出法は、ブタiPS細胞やES細胞の多能性評価システムとして非常に有効であり、実際、共同研究者が樹立したブタiPS細胞の多分化能の検証においても重要な役割を果たし、その成果の一部はGenesis誌に掲載された。また、異種キメラにおいても発生初期胎仔においてキメラ状態が維持出来るという知見を得たことから、概ね順調に研究計画は進展していると評価する。
当初の計画の通り、ZFNによるブタ初代培養細胞の遺伝子KO(候補はSall1, Il2RG)を行う。得られたKO細胞を体細胞クローニングに用いて、KOクローンブタを作出する。得られたクローン胎仔あるいは産仔における表現形や他の異常の有無について詳細に解析する。腎臓または胸腺の欠損の表現形が確認されたら、その個体の細胞からクローン胚を得て、その胚盤胞補完により欠損臓器の修復が可能か否かを調べる。補完には同種胚細胞の他、開発状況を見ながら、ブタiPS細胞を用いる。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)
PLOS ONE
巻: 8
10.1371/journal.pone.0061900
10.1371/journal.pone.0076478
Genesis
巻: 51 ページ: 763-776