研究課題/領域番号 |
13J06532
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
今井 良紀 東京医科歯科大学, 大学院生命情報科学教育部, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 細胞老化 / 休止期 / フォークヘッド転写因子 / 癌抑制機構 / 活性酸素種(ROS) |
研究概要 |
細胞老化は、発癌の危険性のある様々なストレスによって引き起こされる不可逆的な増殖停止状態であり、生体内で重要な癌抑制機構として働いていることが、近年明らかになってきた。一方、細胞周期の休止期(GO期)は、可逆的な増殖停止状態であることが知られている。いずれの場合もRBファミリー蛋白が重要な働きをしていることが知られているが、RBファミリー蛋白が細胞老化を誘導するのか、それとも休止期を誘導するのかをどのように選択するのかについては殆ど明らかになっていない。そこで私は、ヒトの正常繊維芽細胞を用いて解析を行い、RBファミリー蛋白とAKTキナーゼがフォークヘッド転写因子であるFoxO3aとFoxM1の活性を制御することで細胞老化を起こすか、それとも休止期を起こすかという細胞運命を決定していることを見出した。 また、増殖中の細胞ではFoxM1が、休止期の細胞ではFoxO3aがそれぞれSOD2の発現を誘導することで細胞内の活性酸素種(ROS)のレベルを低く保っている。しかし、増殖シグナルの存在下でRBファミリー蛋白が活性化すると、RBの下流でE2F/DPが失活しFoxMlの発現が低下するとともに、AKTの活性化によってFoxO3aも失活するために、SOD2の発現が低下する。このため、ROSの産生を抑制できなくなり、細胞内のROSレベルが上昇し、恒常的にDNAダメージ応答が働くことで細胞老化が起こると考えられる。興味深いことに、このメカニズムはマウスの肝臓においても働いていることが観察され、生体の恒常性の維持に貢献している可能性が示唆されたことから、今後発癌と加齢との関係解明にもつながる可能性が期待される。 このように、私は本研究において、フォークヘッド転写因子であるFoxO3aとFoxM1がRBファミリー蛋白と協調して細胞運命を決定するメカニズムの一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌抑制機構として知られる細胞老化は、細胞周期を不可逆的に停止させることで発癌を抑制していると考えられているが、その分子メカニズムは未だ不明な点が多い。本年度、私はAKTシグナルの存在下でp16-Rb経路が活性化されることで、活性酸素種(ROS)の産生が亢進することにより細胞老化が起こることを見出し, Cell Reports誌に発表した。以上の研究成果は期待通りの成果を上げたことを示していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
細胞老化はアポトーシスと同様に癌抑制機構として働いていると考えられているが、アポトーシスとは異なり老化細胞は死滅するわけではないので、生体内に長期間生存し続けることが予想される。このため、今回私が見出した細胞運命決定機構が何らかの異常によって破綻すると、老化細胞が再び増殖を開始して癌化する危険性があると考えられる。そこで今後、生体内のどの組織で、どのような状況の時に細胞運命決定機構が働いているのかを明らかにしていくとともに、発癌や他の様々な疾患にこのメカニズムの破綻が関与しているかどうかについても検討していく予定である。
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