研究課題
がん抑制機構として知られる細胞老化は、細胞周期を不可逆的に停止させることで発がんを抑制していると考えられているが、その分子メカニズムについては依然として不明な点が多く残されている。昨年度までに私は、正常繊維芽細胞を用いて、再現性のよい細胞老化の誘導システムを構築し解析を行ってきた。その結果、増殖シグナルの存在下でRBファミリー蛋白が活性化すると、細胞内のROSレベルが上昇し、DNAダメージが蓄積することで不可逆的な増殖停止状態(細胞老化)が誘導されることを明らかにしてきた。しかし、アポトーシスと異なり細胞老化を起こしても細胞がすぐに死滅するわけではないので、生体内に細胞老化を起こした細胞(老化細胞)が長期間存在し続けることが予想され、体内に蓄積した老化細胞の生体に及ぼす長期的な影響が懸念される。最近の研究で、老化細胞は増殖を停止して大人しくしているだけでなく、様々な分泌性タンパクを高発現するSASP (senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる現象を起こしていることが明らかとなってきた。これまでに私たちは、DNA損傷シグナルによりG9a およびGLPなどのヒストンメチル化酵素が蛋白分解を起こすことでエピジェネティックな遺伝子発現抑制機構が解除されるためにSASPが起こることを明らかにしてきた。今回、この点について更に検討を重ねた結果、老化細胞において既知のSASP因子だけでなくある種のノンコーディングRNAの発現が著しく上昇していることを見出した。このノンコーディングRNAの中には、ヒトのがん組織で発現が亢進していることが近年報告されているものも含まれており、老化細胞が生体内に長期間存在し続けると発がんを促進する副作用がある可能性が示唆された。このような細胞老化の副作用は今後、発がんメカニズムを解明する上での重要な鍵になるのではないかと期待される。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature communications
巻: 6 ページ: 7035
10.1038/ncomms8035