研究概要 |
本年度は、証拠推量表現に関する理論的研究と方言および日本語の非主要的な推論表現の記述的研究の両面について研究を進めた。 証拠推量にかかわる表現の分析理論の研究 証拠推量表現についての研究では、研究計画に従い日本語のラシイ、ヨウダなどの証拠推量表現について、状況意味論を用いた分析に取り組んだ。研究遂行にあたって、状況意味論を中心に、意味論関係の理論を資料に基づいて検討し、分析の草案について2014年2月の京都大学における意味論ワークショップで発表し、形式意味論研究者などから意見を得た。具体的な分析としては、証拠推量表現をTopic Situation, Evaluative Situation, Discourse Situationの3種の状況を用いて証拠推量表現を分析(Cf. Speas 2010, Kalsang et al. 2013)したうえで、ラシイとヨウダの意味・機能の違いを、Topic SituationとEvaluative Situationの間の包含関係が逆になっていることによって捉えるという提案を行った。これは、従来指摘されてきた証拠推量表現の推論に関する特徴を、より抽象性の高い理論によって捉えようとするもので、推論と人間の認知的能力との相関を見るうえで興味深いものである。 方言・非主要表現の記述的研究 琉球語宮古島西原方言の動詞N-形について、同方言の記述文法の作成を進めている林由華氏とともに調査を行い、推論・認識モダリティと情報構造の両面から一般化を試みた。また、日本語の非主要的な証拠推量表現として働いている接尾辞「~くさい」について記述的研究を行い、容認度や用法の範囲を検討した。これらの研究は、推論に関わる表現の意味変化や文法化の過程、他の意味カテゴリーとの関係についての普遍的傾向に関する考察を深める際の基礎となることが期待できる。
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